「何とか与党で合意を」と安倍首相はいまも強く促しているが、敗色濃厚である。
執念を燃やす憲法解釈変更による集団的自衛権の行使制限撤廃は挫折を余儀なくされそうだ。
約束していた今国会中の閣議決定は無理で、秋の臨時国会までに、と先送りを決めたが、着地点は見えない。1年前、改正手続きを定めた憲法第96条の先行改正を強く唱え、民意の支持が得られずに断念した苦い経験があるが、2年連続の誤算となる可能性が高い。
集団的自衛権の行使容認の試みは、それに強くこだわる安倍首相の一人相撲の感があるが、菅官房長官は「安全保障環境の激変」「抑止力アップ」を理由に挙げる。
安倍首相はそれ以上に、日米安保条約の双務性を高めることを企図していて、発想の原点に「対等の日米関係」がある。オバマ大統領は4月の来日で、それを「歓迎し、支持する」と明言したが、一方で「日中対立のエスカレートは重大な誤り」と最大級の警告を発している。
ウクライナ危機で「新冷戦」という見方もあるが、東西冷戦はヨーロッパでは十数年前に消滅した。
だが、膨張主義の中国と挑発路線の北朝鮮が健在の北東アジアはいまだ冷戦状態といっていい。現実直視の安倍首相は対中包囲網と朝鮮半島有事対応という冷戦型対決外交に懸命だが、ヨーロッパの冷戦終結までの道のりを見ると、冷戦型対決外交よりも信頼醸成や「自由と民主主義の輸出」のほうが冷戦終結に効果的で、安倍首相が唱える「戦略外交」「積極的平和主義」にも合致する。
現在の安倍路線は「1周遅れ」と映る。
集団的自衛権問題でのつまずきは、公明党の根強い反対、自民党内の消極派の抵抗などが直接の要因だが、背後に横たわる民意や世論の壁が大きい。国民の多くは安倍流冷戦型外交では問題は解決せず、国益にも沿わないと見ているのではないか。
首相は「戦略的対応」が売りだが、目標達成の作戦と手法を戦略的に考えるだけでなく、基本的な発想と視野でも「戦略的対応」の複眼思考と柔軟さがなければ、民意と世論の厚い壁は打ち破れないだろう。
(撮影:尾形文繁)
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