ゼロから考える経済学 未来のために考えておきたいこと リーアン・アイスラー著/中小路佳代子訳 ~慈愛に満ちた女性的価値観に基づく「新・国富論」
読み始めでは、きれい事、絵空事の経済学を論じているという感想を持たされる。だが、途中でその印象は見事に覆される。「経済のダブル・スタンダード」と題された第4章から著者の激情がほとばしり始める。
このダブル・スタンダードとは富者と貧者のそれではなく、根本的な行動基準が男と女で違うというのだ。闘争を是認し、勝ち残りのために手段を選ばない男のそれと、子供、家族のために自己犠牲をいとわず、他者への慈愛に満ちた女の基準が、従来型の経済学と著者の主張する真の経済学を分かつものであるとの論旨を展開する。
幾多の例を挙げながら、女性あるいは女性的価値観が主導する、他者への思いやりに満ちた行動様式が世界を変え得ると論じる。
マイクロファイナンスも女性を借り手としたことで、大成功を収めているが、この原因を酒、ドラッグ、賭博といった快楽消費に走りがちな男性と、子供のために貯蓄し、自分の消費を抑える女性特有の思考に求めている。
ブラジルでの調査で、いくらあれば子供のためにおカネを使うかという問いに、1レアルからと答える女性と16レアル必要という男性の対比も鮮烈だ。女性は男性より劣っているという社会の強迫観念が、共生、いたわりを基調とする社会の生成を阻むとする指摘も、女性側のみの視点だとは言えない切実な真理を含んでいる。
「女性の地位の高い国では、思いやることや世話をすることに対して、それを行うのが女性であろうと男性であろうと、より高い価値が与えられている」として北欧の例などを挙げている。