ゼロから考える経済学 未来のために考えておきたいこと リーアン・アイスラー著/中小路佳代子訳 ~慈愛に満ちた女性的価値観に基づく「新・国富論」

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 女性の家事労働が不当に低く評価され、「第2の性」に女性を貶めている社会が、目を覆うばかりの貧富の差、超格差社会を作っているという苦言にもうなずける。

貿易や投資の拡大に伴う経済のグローバル化に、「それを制御しているのが支配の精神なのか、それともパートナーシップの精神なのかだ」と、経済自由化の動機に鋭く警鐘を鳴らす。戦闘機1機の値段と何百万人の乳幼児のミルク代が比較されているのも、軍備の意義への根源的な問いとなっている。

また「世界の大部分の人々が貧困生活から抜け出せないのであれば、高度な科学技術が私たちに黄金時代をもたらすという予測はばかげている」と進歩のための進歩も強く否定する。「進化の岐路に立っている」と読者に選択を迫る著者に凄みさえ感じる。

アダム・スミスを強く意識している、この「新・国富論~愛といたわりの経済に向けて」とも訳せるタイトルの本著で、多くの男性読者が私と同じように目を開かせられることだろう。

Riane Eisler
社会科学者、弁護士、社会活動家。オーストリアのウィーンで生まれ、ナチスの迫害を逃れてキューバへ亡命、後に米国に移住。カリフォルニア大学で社会学と法学の学位を取得し、同ロサンゼルス校(UCLA)で教鞭をとる。

英治出版 2310円 383ページ

  

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