「日本語に合った英語」に転換しよう 日本の英語教育を変えるキーパーソン ソレイシィ(1)

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受け身一辺倒の英語から脱却せよ!

安河内:日本で生まれ育ち、日本語でずっと考え生活している人が、いきなり「Thinking in English」と言われても難しいですよね。

ソレイシィ:そうですね。たぶん大きな流れとしては、英→日の時代、つまり「外国からやってきた英語を日本語に訳して理解する」時代が教育の土台になっていたと思います。昔、外国の文化や技術を取り入れるために、「英語を日本語に訳せる」人材を作る必要がある、と日本の政府が欲していたのだと思います。それでずっと長い間、英→日、英→日ができる人材を育成する教育が続いてきた。これは、別に悪いことではありませんし、今すぐ英→日の流れをすっぱり断ち切るべきということでもないのですが、どこから見ても「英→日一辺倒」になってしまっている、という気はしますね。

安河内:本当にそうですね。日→英があまりない状態ですものね。

ソレイシィ:偏っていることを自覚せずに、「英→日こそが英語の勉強」だと思い込んでしまう。あるいは英語の能力は総合的なスキルのはずなのに、「入試英語」などに化けてしまって受験生を振り落とすための、まるでパズルを解くような試験だけが独り歩きしてしまっているんですね。結果として、英語学習は極端にreceptive(受容的)になっている気がします。しかも化けた形の、試験問題を解くためだけのreceptiveな学習です。

たとえば、受験生の100人中99人が、「もっと語彙を知りたい」という人だと思うんですね。知らない語彙があるとそれを知るべきだということで、もう満遍なく覚えようとする。インプットの罠にはまってしまうのです。

安河内:私も大学時代はそうでした。

ソレイシィ:当然のことです。日本の英語教育システムがそうなっているのですから。 どんな人でも日本で育って日本の英語教育を受ければ、インプットの罠、インプット・コンプレックスに陥ってしまう可能性があります。「この文法書を全部理解してから」とか「単語帳の語彙を丸暗記してから」などと考えていては、永遠に話す機会はやってきませんし、いつまで経っても自信は持てません。

これまでの日本の英語教育は、「R-BELTT(アールベルト:Receptive Based English Language Teaching and Testing/受容型の英語教育と試験)」と言えると思います。日本ではTeachingと並んでTestingも非常に重要ですから、最後にふたつのTがつきます。「R-BELTT」は、たくさんの成果をもたらしました。英文が読める人、理解できる人を生み出してきました。誰が教えても同じことが教えられるので、教えやすいですし公平です。

でも、それ以上には思うような成果が得られていないようです。それどころか、日本の「R-BELTT」と「入試英語」がもたらしてきた最大の“成果”は、英語コンプレックスを生み出すことだったのではないでしょうか。 程度の差こそあれ、確実にどこかコンプレックスができてしまう。

Productiveベースの英語とは?

ソレイシィ:でもこれからは、ちょっと新しい時代になるはずです。試験改革がそのカギで、今、次の時代の波がもう来ていると思います。次の時代の波というのは、 「P-BELTT ( ピーベルト:Productive Based English Language Teaching and Testing:/生産型の英語教育と試験)」のことです。「P-BELTT」の時代に突入する兆候は、すでにたくさん出てきています。特に斬新だとか画期的だという話ではありません。

今世紀になってから日本に新しく登場してきている英語の試験には、すべてproductive な要素(話す・書く)が入ってきています。留学生向けの試験のTOEFLでも新しくスピーキングとライティングが必須項目になりましたし、社会人向けのBULATS(ブラッツ)にもスピーキングとライティングのパートがあります。GTEC(ジーテック)もそうですね。TOEICにも従来のリスニングとリーディングの試験に加え、2007年からスピーキングとライティングの試験が登場しています。このように、新しいテストがみなproductiveな要素を必須としていることを見れば、時代の流れが「P-BELTT」なのがわかると思います。

安河内:アウトプットの重要性が認知されだしたわけですね?

ソレイシィ:ええ。ただし、私はこの流れを「アウトプット型」とは呼びたくないのです。「アウトプット」だと違うものになってしまうと思うからです。 おうむ返しにリピートすることも、流れに乗ってシャドーイングすることもアウトプットと呼ばれますが、これだと、自分で話の内容を作り出してはいませんよね。本当に何かをアウトプット(出力)したとは言えないわけです。ですから「何かを生産する、産出する」という意味のproductiveのほうがoutputよりも的確な言葉だと思うのです。

英語の研修を行うと「先生、何を言えばいいんですか?」と参加者に聞かれることがありますが、何を言えばいいか、内容を自分で決めるのが肝ではないでしょうか。これが新しい英語教育のひとつのポイントかもしれません。

「P-BELTT」では、自分で考えた発言内容を、いかに英語に置き換えて話せるか・書けるかというところまで持っていくことが可能になります。では「P-BELTT」を行う中で、何が最も効果的な方法かということについては、ひとりの教師や研究者がこれ、と言って決めるのはおかしいと思っています。スピーキングテストやライティングテストがあれば、自然にどのメソッドが最も効果的に学習者のproductiveな能力を育てるか明らかになってくるでしょう。

私は、試験の存在自体を悪いとは考えていません。むしろ試験をうまく使いましょうと、いつも言っているのです。

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