老いなき世界「人生のゴール」は無意味になる 「成長」から「持続」へと変化する人生の価値観

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それまでは、みんなに社長として信頼され、社会に承認されて働いていたのに、急に仲間と日がな一日ゴルフなどをして暮らすようになる。生活の心配はないし、好きなものを買って、海外旅行も行ける。しかし、誰からも承認は得られないんです。それはとても寂しい人生ですよね。

承認というのは、なにも社会的に成功したり、有名になったりしなくても、日々の人間関係やボランティア活動でも得られるものです。刹那的なものではなく、いかにいい関係性を作っていくかという話にもなりますし、複数の収入とともに、複数の自己承認がこれからの時代に必要なものだと言えるでしょう。

「ゴールする」から「いい状態を作る」へ

昔は「一国一城の主になりたい」という夢がよく語られましたよね。でも、いま、生きていて何が目標ですかと言われると正直よくわからないという人が多いのではないでしょうか。

僕も「大金持ちになりたい」とはあまり思いません。ただ、いまの生活を維持したい。目標は、いい人間関係をたくさん作ること、でしょうか。人生の目標が、「ゴールすること」ではなく、「いい状態を作ること」に変わってきているのかもしれません。

実際、最近のスタートアップの若者たちのマインドは、「成長」よりも「持続」に変わっています。90年代は、ライブドア、サイバーエージェント、楽天など「成長して世界一を目指す」というマインドが主流でした。しかし今は、「お金は欲しいけど、そんなにすごく成長しなくてもいいから、価値観を共有できる人と関係を長く続けたい」という感覚の人が多いのです。いかに快適な状態を維持するかが目標なんですね。

誰もが健康なまま120年生きることが現実になれば、ゴールもどんどん先延ばしになっていきます。ゴールすることそのものは無意味になっていきますから、いかに気持ちよく追い求める状態を作れるか、ということがいちばんの理想になるかもしれませんね。

山登りがまさにそれなんです。登っているときは、風が吹き抜けて心地いいし、景色が美しいな、鳥のさえずりが聞こえてくるなといろいろなことを感じられます。つらくありませんし、この状態でずっといたいとも思う。とはいえ、頭のなかのどこかで、早く下山して、ふもとの温泉に入りたいというゴールを思っていたりもする。

長い人生を過ごすというのは、きっとこの感覚に近いのではないでしょうか。いろんな意味で、人生の捉え方を刷新していく時代に入ったと言えるでしょう。

[構成/泉美木蘭]

佐々木 俊尚 作家・ジャーナリスト

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ささき・としなお / Toshinao Sasaki

1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数。

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