老いなき世界「人生のゴール」は無意味になる 「成長」から「持続」へと変化する人生の価値観

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コンビニ弁当だと、1個500円だとして20個しか買えません。でも、同じお金で食材を買って食いつなげば、1カ月は余裕で生活できますよね。

佐々木 俊尚(ささき としなお)/ジャーナリスト。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。毎日新聞記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリストとして活躍。ITから政治、経済、社会まで、幅広い分野で発言を続ける。最近は、東京、軽井沢、福井の3拠点で、ミニマリストとしての暮らしを実践。『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『そして、暮らしは共同体になる。』(アノニマ・スタジオ)、『時間とテクノロジー』(光文社)など著書多数(写真:筆者提供)

しかし、そのような発想ができるかどうかは、その人が置かれている環境や、アドバイスできる人、支えてくれる人、ロールモデルとなる人がいるかどうかが大きく影響しているのです。なかには「パチンコに行ってお金を増やせばいい」と考える人もいて、そのような人は世間から非難されがちですが、要するに、そんな発想しか浮かばない環境に置かれてきたという貧困もあるわけです。

都会で300万~400万円ぐらいの収入があっても、ものすごく貧困な状況に置かれているという人もたくさんいます。ブラック企業で1日12時間ぐらい働いて、身も心もクタクタになって帰ってきて、コンビニ弁当を食べることしかできない。そうすると、太って不健康になってしまいます。

一方、地方では、年収200万円ぐらいで農業をやっているけど、毎日ご近所と交流して、野菜をもらったりしながら楽しく暮らしていて、体も引き締まっているという人もいるわけです。

どちらが貧困でしょう。明らかに、収入が多くて都会でブラック労働をしている人ですよね。「ライフスパン」の時代には、こういった文化的貧困が、健康格差につながっていくのではないかと感じています。

ライフスパン時代は「複業」が当たり前に

健康寿命が延びれば、キャリアの形成も大きく変わってゆくことを考えておかなければならないでしょう。今後はセカンドキャリアどころかサードキャリアまで働かなければならないという話にもなるかもしれません。

ただ僕は、副業の方向に回帰していくのではないかと考えています。そもそも戦前の日本には、正社員はほとんどいませんでした。財閥系企業に勤める一部のエリートがいるだけで、大半は工場の工員や露天商などの自営だったのです。

夏は冷やし飴を売り、冬は焼き芋を売り、そして時々出稼ぎをして工場で組み立てをやる。そうやって複数の仕事を持っていることが一般的だったわけです。つまり、サブの副業ではなく、複数の「複業」ということですね。

実際に、先進的な若者はそういうスタイルに移行しつつあります。農業をやりながら、ウェブデザインやライターの仕事も請け負っていたり、空いた時間に近所の工務店を手伝っていたり。今後は、こういった形態が主流になるのではないでしょうか。

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