アメリカのアジア政策が85年前を想起させる訳 いまなぜ「マクマリー・モーメント」が必要か

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「われわれの最も消息通の職業外交官の一人であったジョン・V・マクマリー氏(※)は、引退されてから数年になるが、1935年に極めて思索的で予言的な覚書を書いた。そのなかで、もしわれわれが現にとりつつある方向にこのまま進んで行くならば、日本と戦争が起こるであろうと指摘した後、彼は、その戦争においてわれわれの目的を徹底的に貫徹したにしても、それはロシアにうまい汁を吸われるだけであり、山ほどの新しい問題をつくるだけであると述べた」

(※)ここでは「マックマレー」と表記されているが、本稿が参考にする「マクマリー・メモランダム」を邦訳して刊行したアーサー・ウォルドロン『平和はいかに失われたか~大戦前の米中日関係もう一つの選択肢』(原書房、1997年)とここでは表記をあわせることにする。

これが歴史家の間で有名な、「マクマリー・メモランダム」である。すなわち、東アジア通の外交官であったマクマリーは、アメリカの強硬な対日政策がいずれ日米戦争に帰結することを懸念していた。そして、それによりアメリカが勝利した後のこの地域で、新たな「力の真空」が生まれると予言し、それを深刻に懸念したのだ。そうなれば、その「力の真空」を埋めようとするのは巨大な大陸国家であるソ連である。日米戦争でのアメリカの勝利が、米ソ対立に帰結することが必然だと、マクマリーは早くも1935年の時点で予言していたのだ。

中国を過剰に信頼したアジア政策はいずれ行き詰まる

戦後、ケナンが国務省政策企画室長として対日政策をより穏健な方向に転換しようとしたときに参考にしたのが、このマクマリーの見解であった。東アジア情勢にあまり精通していないケナンは、1948年2月の訪日の前に、最も優れたアジア専門家と見なしていた外交官引退後のマクマリーに連絡を取って、助言を求めている。そして両者が共通に認識したのは、アジアにおける最大の大国は日本であり、アメリカにとっては日本との協力が不可欠であることと、そして中国を過剰に信頼したアジア政策はいずれ行き詰まるであろうことであった。

いわば、現在のトランプ政権において、ポッティンジャー副補佐官、そしてポンペオ国務長官は、この忘れ去られたマクマリーのアジア政策を復活させようとしているように感じられる。ここではそれを「マクマリー・モーメント」と呼んで、マクマリーの提唱したアジア政策が85年の時を隔てて復活することの意味を考えたい。

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