自動車業界は、10年の世界主要市場での販売見通しは依然厳しく、回復は緩やか《スタンダード&プアーズの業界展望》

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アナリスト 薩川 千鶴子
小林 修

政府による購入者向けの補助金制度や減税措置で、多くの市場で需要が回復に向かっている。だが、2010年の世界の主要市場での販売見通しは引き続き厳しく、緩やかな回復にとどまるため、自動車・自動車部品メーカーの収益・キャッシュフローや財務の急回復は見込めない、とスタンダード&プアーズは考えている。

需要低迷に加えて、世界の自動車・自動車部品メーカーにとって、環境車への投資、主要市場で需要がシフトしている低価格車での利益確保、新興国市場での需要の取り込みなどが重要な課題となっている。各社は転換期を生き残るため、これらの課題への対応を迫られているものの、単独ですべてを十分カバーするには、あまりに負担が大きく不可能だろう。

アライアンスの活用や資本提携などの業界再編が、今後さらに加速していく可能性があると考えられる。

世界の主要市場での販売見通しは引き続き厳しい

スタンダード&プアーズは、米国市場での10年の新車販売台数を前年比約8%増の1110万台と予想している。一方、欧州市場、とりわけドイツ、フランス、イタリアなど西欧は、09年に行われた販売奨励施策による需要の先取りの反動から、販売台数は同11%程度減少するとみている。

09年に登録車と軽自動車の合計販売台数が461万台と前年を9.3%下回った日本については、微増を予想している。また、生産能力に余剰感を抱える主要市場も多い。

固定費削減に取り組んだことで、自動車メーカー各社のコスト構造は改善したとみられるが、需要の回復が緩やかなため工場稼働率の戻りも遅いとみられ、収益や財務の急回復は見込めない。内需や輸出需要の低迷が長引けば、追加的なコスト構造の見直しを迫られる可能性も出てこよう。

中国やブラジルなどの新興国市場は短期的には需要の変動リスクがあるものの、中長期的に需要の伸びが見込まれる。ただし、需要が伸びていても収益性が悪化する傾向は自動車メーカーにとって懸念材料だろう。

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