中国のフィンテック大手の螞蟻集団(アント・グループ)は8月25日、上海証券取引所と香港証券取引所に新規株式公開(IPO)を申請した。同社は中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)の傘下にあり、キャッシュレス決済の「支付宝(アリペイ)」や個人向け信用評価システムの「芝麻信用」などIT技術を駆使したさまざまな金融サービスを手がけている。
アントが開示した初期段階の目論見書は、資金調達の規模や上場の時期をまだ明らかにしていない(訳注:複数メディアの報道によれば、資金調達額は最大で300億ドル[約3兆1800億円]と世界最大規模になる可能性がある)。だが注目すべきなのは、これまで謎に包まれていたアントの株式所有構造が初めて公にされたことだ。
同社の上場をめぐっては、普通株とは議決権などの権利が異なる種類株を発行するとの臆測が流れていた。香港証券取引所は今年2月、種類株に関する上場規程の改正案を出してパブリックコメントを求めたが、市場関係者の間では、これはアントの上場誘致に向けた布石と見られていた。
ところが予想に反し、アントが上海で発行予定のA株(人民元建て)と香港で発行予定のH株(香港ドル建て)はいずれも議決権が「1株1票」の普通株だった。目論見書によれば、特別な議決権が付与された株式や経営を支配するための特殊な権利構造は存在しないという。
1~6月期の純利益は前年同期の11.6倍
種類株を発行しない理由は、その必要がないからと考えられる。というのも目論見書によれば、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は直接所有と間接所有の合計でアントの発行済株式の50.52%を握っている。つまり馬氏は、普通株だけですでにアントの絶対支配権を押えているのである(訳注:親会社のアリババでは馬氏の持ち株比率は5%に満たず、「パートナーシップ制度」と呼ぶ特殊な仕組みで影響力を保持している)。
なお、目論見書に記載されたアントの大株主と持ち株比率は、アリババの全額出資子会社の杭州阿里巴巴網絡科技が32.65%、従業員持ち株制度のプラットフォームである杭州君瀚株式投資組合が29.86%、同じく杭州君澳株式投資組合が20.66%、その他の株主が16.84%となっている。
同じく目論見書によれば、2020年1~6月期のアントの売上高は前年同期比38%増の725億2800万元(約1兆1100億円)、純利益は前年同期の11.6倍の219億2300万元(約3350億円)に達した。純利益の大幅増加の要因は、売上高が拡大するなかで営業コストや販売管理費を低く抑えたためとしている。
(財新 駐香港記者:尉奕陽)
※原文の配信は8月25日
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