数学が苦手な人は社会の仕組みがわかってない Netflixがつい見たくなる作品を薦めてくる訳

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もう少し身近な話をすれば、エスプレッソをいれるときにも数学は使われている。高機能なエスプレッソマシンなら、お湯を沸かしてコーヒーを抽出するだけでも相当の手間がかかる。まず確認されるのは水が温まる速さ。そしてこれをもとに、加熱を続けるか、少し冷めるのを待つかを判断する。理想の温度になるまではこの繰り返しだ。考えてみたことすらないかもしれないが、エスプレッソ1杯にも、高校時代に習った数学の公式が使われているのだ。

数学が生活に及ぼす影響はかなり大きい

こう見てくると、数学が生活に及ぼす影響はかなり大きい。自分で計算することはないにしろ、毎日さまざまな計算の世話になっている。判断の際に参照する情報も、なんらかの数学的な処理の結果だと言ってかまわないだろう。グーグルやフェイスブックなど、情報をフィルタリングして表示するウェブサイトでは、コンピューターによる計算に基づいて検索結果を表示しているからだ。

『公式より大切な「数学」の話をしよう」(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

身のまわりにあるテクノロジーにも、数学を利用したものが増えてきた。全自動のエスプレッソマシン、飛行機の自動操縦、仕事に欠かせないパソコン。これらはすべて数学がベースになっている。さまざまなところで数学が使われるようになるなかで、数学とその影響をある程度理解しておくことがますます大切になっているのだ。

だからといって、ニュースに出てきた数値を詳細に確認し、AIの最新動向をすべて把握する必要はない。基本的な仕組みを理解するだけでも、世界の見え方はかなり変わるだろう。研究やアンケートの結果に引っかかるところがあれば、もととなる数値を批判的に見直してみるとよい。あるいは、当局や企業としてどこまで個人にかかわるデータを収集すべきか、意見交換をしてみてはどうだろう。数学を身につければ、集められたデータで何が行われているか、より正確にイメージできるはずだ。

ステファン・ボイスマン 数学者

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Stefan Buijsman

1995年、オランダ、ライデン生まれ。15歳でライデン大学に入学し、天文学、コンピュータサイエンス、哲学を学ぶ。18歳で修士号を取得。その後、スウェーデン、ストックホルム大学で通常4年の課程を18か月で修了、20歳でストックホルム大学最年少博士号を取得。現在はストックホルムの研究機関で数学の哲学の特別研究員(PD)。2018年、数学がテーマの児童書(共著)を刊行。同年に刊行された本書『公式より大切な「数学」の話をしよう』は18か国で出版が決定したほか、オランダ文学基金による「2018年注目のノンフィクション10冊」にも選出された。2020年、AIをテーマにした新作を上梓。オランダ、デン・ハーグ在住。

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