また、「音のVR」のライブ配信という新たな取り組みにも挑戦。これはKDDIによる新技術で、画面の一部をクローズアップすると、そこから発生している音の音量を上げることができるというもの。
例えば合唱の曲はソプラノ、アルト、テノール、バスという4声でハーモニーを作っているが、「音のVR」で録画された動画では、画面の中でアルトの人をクローズアップすると、アルトだけを目立たせて聞くことができる。これは楽しみのためだけでなく、合唱の練習に非常に役立つのだという。
そして例年と同様、信長貴富氏の作品「くちびるに歌を」で演奏会を締めくくった。今年は会場の聴衆がいっしょになっての演奏はかなわなかったが、静かな熱気と盛大な拍手により、終了となった。
なお、観客に関しては会場収容人数の半数という制限があり、これだけでも公演収入としては赤字に近い。今回は開催日が変更になったことに加え、「夜の街」というイメージで見られがちな、池袋でのコンサートであったこともあり、事前購入チケットの払い戻しも多かったようだ。同団では、合唱の公演であることを考慮して、公的なガイドラインによる制限のさらに半分に人数を絞り、500人限定で開催した。
「歌うことが団体の存続する意味」
「こうした社会状況の中で合唱をやっていくというのは大変なこと。しかしわれわれにとって、お金を得る手段という以上に、歌うことが団体の存続する意味。マスクもやりたくてやっているわけではないですが、自分たちが合唱を続けていくために、世の中の合唱ファンのために、できることをしようと思いました」(村上氏)
マスクに託された意味は重い。
しかしこのたび一観客としてコンサートを拝聴した筆者としては、マスクによる違和感を感じることはまったくなかった。音質については、普段から合唱のコンサートを聴いているわけではないので比べられないが、十分に楽しむことができた。
1つには、胸元をふわっと覆っているマスクが、女性はとくに衣裳の一部のようになじんでいたこともあるだろう。舞台上で密にならないよう、歌い手同士の距離をかなりあけていたことも、ダンスや劇の演出のようで美しく感じられた。
なお同団では9月8日に、同じ東京芸術劇場において、特別演奏会「田中信昭と共に〜東混オールスターズ」を開催する。団の設立者である田中信昭氏、音楽監督の山田和樹氏など、8人の指揮者が共演する豪華なコンサートとなっている。
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