クボタ「巨大トラクター」で狙う欧米市場の攻略 過去最大の農機で世界首位の企業に真っ向勝負
一方、現地の農業用トラクター市場は、先述したディアアンドカンパニーが圧倒的なシェアを握っている。自動車のフィアット傘下の欧州系農機メーカーで世界2位のCNHインダストリアル(トラクターのブランド名は「ケース」「ニューホランド」)がそれに続き、純粋な農業用途でのクボタの存在感は非常に乏しいのが実情だ。
実は、クボタは以前にも大型農機に挑戦している。1980年代の後半にスペインの農機メーカーを買収。最大170馬力のトラクターを自社開発し発売した。が、景気の悪化で現地メーカーが倒産し、販売は200台ほどにとどまった。その後、アメリカでも投入を検討したがジョンディアと戦う競争力はないとの判断で見送られた経緯がある。
大型領域参戦の背景に危機感
では、なぜ今、そのクボタが欧米で大馬力のM8を発売し、農業用の領域にも本格的に足を踏み入れたのか。最大の理由は、これまでの成長戦略に限界が見えてきたからだ。大きな地盤である東南アジアでは、稲作用の農機を中心にすでに各国で7~8割近いシェアを握っており、これ位以上の伸びしろは限られる。
シェア4割で首位を走るアメリカでのコンパクトトラクターの商売にしても、近年、その競争は厳しさを増している。中でも注目すべき存在はインドのマヒンドラ&マヒンドラ。安さを武器に北米のコンパクトトラクター市場で徐々に存在感を増している。クボタにとっては将来の大きな脅威だ。
マヒンドラはアメリカのコンパクトトラクター市場でシェアを取るため、数年前から7年間のローンゼロ金利の販売施策を展開。クボタもこれに対抗して追従したため、利益の圧迫要因になっている。渡邉本部長は「まだブランド力などで差はあるが、マヒンドラのコスト競争力は高い。技術やブランドで追いつかれれば、いずれ食われてしまうかもしれない」と強い危機感を示す。
こうした中で、農機事業をさらに中長期にわたって着実に成長させていくためには、新たなドライバーが欠かせない。その期待を担うのが、巨大な市場規模を誇る欧米の畑作用の大型トラクターであり、今回のM8はそこに本格参戦する大きな一歩なのだ。
210馬力のM8は、欧州の農業用としてはほぼ十分なサイズ。ただし、アメリカではそれでもまだ小さい部類に入る。アメリカの大規模農家は300馬力以上のメイントラクターを持ちつつ、比較的に小回りの利く200馬力クラスも併用するケースが多く、「まずはアメリカではセカンドトラクターの座を狙っていく」と渡邉本部長は話す。
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