このような人々の反応の変化は、おそらく人々の「マインドセット」(心理状態)の変化によってもたらされているのだろう。むろん、検査数の増加によって見つかる感染者数が増えた可能性が高くデータが示す意味合い自体が変わってきたこともあるし、重症者数はそれほど増えていないということもある。だが、依然として「新規感染者数」はヘッドラインとして注目されており、情報の「受け手側」の考え方が変化したという面が大きいだろう。
今回のコラムでは、移動データに与える「感染者数」の影響を「第1波」と「第2波」を分けたうえで、人々の「マインドセット」の変化を分析した。
2つのバイアスが緩和された
新規感染者数の増加に対する人々の行動の変化(感応度)が抑制されてきた要因として、行動経済学的な観点からは以下の2つのバイアスが緩和されたことが大きいとみられる。
(1)「損失回避」バイアスの緩和
「損失回避」とは、人々は基本的にリスク回避的であるため、「利得」よりも「損失」を大きく見積もりやすいというバイアスである。当初は新型のウイルスという存在に対して自粛せずに経済活動を継続する「利得」よりも感染拡大の中、自分が感染してしまうかもしれないという「損失」を過度に見積もっていた可能性がある。
(2)「利用可能性ヒューリスティック」バイアスの緩和
「利用可能性ヒューリスティック」とは、人々は利用可能で「取り出しやすい」記憶情報に対して優先的に頼って判断してしまう傾向があるというバイアスである。メディアでは頻繁にウイルスに感染した人のエピソードや海外で感染者が急増しているというニュースなど、負の側面を強調したため、人々はその情報を優先してしまい、結果的に必要以上にリスクを回避していた可能性が高い。
また、「親近感バイアス」と呼ばれる類似のバイアスもあるが、「親近感」を持ちやすい芸能人などの著名人が感染したり、亡くなったりすることで人々の恐怖が増した面もあっただろう。依然として、一部では感染者に対する差別的な行動などがあり、「利用可能性ヒューリスティック」による過度なリスク回避は残存しているとみられるが、徐々に緩和しつつあるのだろう。
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