ポーの作品はこんなんじゃありませんから! エドガー・アラン・ポー原作『魔術師の呪い』のヒミツ

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一方、『魔術師の呪い』はどうか。『大鴉』ではいつの時代とも場所がどこという指定もなかったが、こちらは魔術が跋扈する中世末期のイギリスと特定されている。主人公も若い学者ではなく、能力は素晴らしいが非常にお人よしでグズな中年魔術師エラスムス・クレーブンという設定。さらに彼がその死を悲しんでいるレノアは、若い娘どころか彼の後妻であった女性である。

そしてクレーブンには先妻との間に、『大鴉』におけるレノアくらいの年齢の娘、エステルまでいる。通常のリライトでは主人公の青年を無理矢理に少年に変更してでも、子ども達の共感をつかもうと画策するものだが、本作ではまるで逆。青年を子どもどころか中年の冴えないおっさんに変えてしまっているところからして、子供の共感を拒否するようなところがあり、子ども向け読みものとしては非常に異色である。

いろいろなことを話すカラス

手がカラスのままになったベドロー

肝心の筋だが、冒頭の、悩める主人公の書斎に大鴉が飛び込んできて人語を話す、というところだけは同じなのだが、それ以降は完全に別のストーリーになっている。

まず大鴉は「Nevermore」どころか色々な言葉をしゃべりだす。なんとこの大鴉は、悪の大魔術師スカラブスによって大鴉の姿に変えられた、クレーブンの友人ベドローだったのだ。クレーブンの魔術でどうにか元の人間の姿に戻ることができたベドローは、大魔術師スカラブスの城でスカラブスに魔法の戦いを挑んだところ大鴉にされてしまったと悔しそうに語るが、ふと部屋に飾ってあるレノアの肖像画を見ると、瓜二つの女性をスカラブスの居城で見かけたと騒ぎ出す。

父の仇敵であった悪魔術師スカラブスとはあまり関わりあいたくないと思っていたクレーブンは、当初ベドローを追い返そうとしていたが、その話を聞き、ことによるとスカラブスがレノアの魂を奴隷としているのかもしれないと思い始める。結局クレーブンは、突然現れたベドローの息子とベドロー、娘エステルと4人で、スカラブスの魔術による様々な妨害をはねのけながらスカラブスの居城に向かう。

しかし「少年ものでもあることだし、これはきっとクレーブンの推測どおり、清純なレノアの魂が悪の大魔術師スカラブスによって現世に奴隷としてとどめられていたのを、クレーブンがスカラブスを倒すことによって解放する、という展開に違いない」という甘い推測は、間もなく見事に裏切られてしまう。本当のところはなんと、レノアは生きていたのだ。そして、クレーブンの前で死んだふりをしてから、自らの意志で悪の大魔術師スカラブスと一緒に暮らしていたのだ。

スカラブスとの対決

しかも、である。彼女がスカラブスに走ったのは、「クレーブンはお人よし過ぎるので、大魔術師スカラブスと組んだ方が、より大きな世間的成功をつかめるに違いない」という無茶苦茶打算的な動機からであった。更にクレーブンによって大鴉の姿から助けてもらったベドローすら、クレーブンの持つ大魔法の術を盗もうと考えた大魔術師スカラブスの命令で、クレーブンをおびき寄せるため、大鴉に身を変えていたのであった。

そして終盤、ようやくレノアの本当の姿を悟ったクレーブンは、大魔術師スカラブスに壮絶な魔術による戦いを挑んでいく――のだが、一番緊迫するはずのそのシーンも今ひとつ盛り上がらず、かったるいくらい延々と続いていく、とまあ、どこまでいってもヘンテコなお話だ。

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