ポーの作品はこんなんじゃありませんから! エドガー・アラン・ポー原作『魔術師の呪い』のヒミツ

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怪作ホラーコメディー『忍者と悪女』のポスター

このダイジェストをお読み頂いて分かるように、格調高い名詩『大鴉』が、なんとも安っぽいヘンテコオカルトホラーに変貌してしまっている。非常にチープな挿絵も、ストーリーのチープさをさらに増幅させている。

ところが、このストーリーは重大な問題をはらんでいる。B級ホラー映画マニアの方は、『魔術師の呪い』の筋書きを読んでいて、既視感にとらわれた方がおられるかもしれない。そうなのだ。実は『魔術師の呪い』の筋書きは、B級ホラーの帝王ロジャー・コーマンが『大鴉』にヒントを得て作った怪作ホラーコメディー『忍者と悪女』(1963)のストーリーそのものなのである。

日本で上映された時のコピーは「恐るべき忍者王に妻を奪われた忍者の復讐!鬼気迫る古城に忍者王対忍者の術競べ!」だが、さすがに「忍者」は出てこない。この映画が封切られた1965年頃は、まだ黒魔術師という言葉が多くの日本人には理解出来ないだろうという日本での興行主の判断で勝手に、スカラブスやクレーブンのことを「忍者」と呼んでしまった。何とも大らかで、いい加減な話である。

日本SFのパイオニア的巨人なのに・・・・

手がカラスのままのベドロー

『忍者と悪女』の原題は、ポーの作品と同じく、『The Raven(大鴉)』である。

コーマンはこの映画でポーと『大鴉』に敬意を表しながらも、かなり悪ふざけをしたホラーコメディー映画を制作したのである。ちなみにこの映画、ボリス・カーロフ(フランケンシュタイン役で有名な伝説の怪奇スター)やヴィンセント・プライス(戦後三大怪奇スターの1人)、ピーター・ローレ(ラング監督の『M』の殺人鬼など演じた超個性派俳優)に加え、影の薄いベドローの息子役として、若き日のジャック・ニコルソンまで出演するという豪華布陣だ。

映画公開(1963年)と出版年(1975年)の差を鑑みるに、『魔術師の呪い』は、コーマンのB級パロディーホラーを、そのまま丸写しした作品に違いない。本書中に、コーマンの名前が出てこないところをみると、コーマンにも断っていないのだろう。

『魔術師の呪い』の文章を書いた福島正実(1929 -1976)は、日本SF並びにジュヴナイル(児童向き小説)のミステリーやSFのパイオニア的巨人として知られる。それまで商業的に根付かなかったSFを日本の土壌に植えつけた福島の功績は非常に大きい。わずか47歳で早世してしまったとはいえ、膨大なSFやミステリのリライトを遺しており、少なくとも40歳より年上の年齢層の方々なら、必ず小学生か中学生の時に彼がリライトしたSFや探偵小説に御世話になったことがあるはずだ。

その彼が、なんでこんなキワモノ映画を原作とするキワモノ小説をものしてしまったのか。この本の巻末をみると当時秋田書店が子ども向けに出版していたSF恐怖シリーズ、怪奇サスペンス全集、世界怪奇スリラー全集などの宣伝がずらりと並んでいる。そういったブームをさらに煽りたかった編集者から懇望され、福島はつい、格調高いポーの名詩を改竄したコーマン映画を、そっくりそのまま児童向け珍ホラーに改変してしまったのではないだろうか。

SF界の大立者がやらかしてしまったこの珍作は、この連載のテーマである「あの大家の意外な珍品」の系譜に連なった立派な(?)作品といえるのである。

古書山 たかし 古書蒐集家

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こしょやま たかし / Takashi Koshoyama

書籍、レコードなどの稀少な出版物を蒐集しているうちに、家の中は資料の山。その整理をめぐって家族との論争が絶えないのだが、それでも蒐集の手を緩めることはない、情熱の人。出張の折などには、古書店めぐりを欠かさない。「古書山たかし」は、もちろんペンネーム。実は会社四季報にもその名前が掲載されている上場企業の経営者だが、その正体はヒ・ミ・ツ。もちろん社業を軸に据えているので株主の皆様、ご安心ください。

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