本当に「法人税減税」はできるのか 改革の論点が、いよいよ出そろった

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この追い風要因と向い風要因の気流をどう潜り抜けられるかが、成否を左右する。税収が減ることに官僚が抵抗して法人減税は実現しない、と見るのは、官僚陰謀論に毒されて近視眼的になっている見方で誤りだ。

安倍首相が意欲を示しているのに、逆らえない。税制以外にも重要な政策課題は目白押しで、支持率が高い内閣でしかできない課題が実現できそうなのに、それを揚げ足取りに回るのは得策ではないという雰囲気さえある。

法人減税の代替財源を、どこに求めればいいのか

むしろ、税務当局は、これを機に法人関係の課税ベースを正す議論を正面からできるという認識も持っている。これに対して、経済界が、法人税率引き下げで一枚岩になれるかが、成否を決する。

経済界は、課税ベースの拡大なしに法人税率の引き下げだけを認めてもらうのがベストと見ている。だが、法人税で課税ベースを拡大しないのなら、他の税目での増税を多くして代替財源を見つけないと、帳尻が合わなくなる。消費税は、まだ10%に上げるかどうかもあいまいなうえ、前述のような忌避感が国民にあるので目下のところは代替財源にはできない(筆者は、長期的には法人課税から消費課税へのシフトが必要だとの理論に立つが)。

すると、法人減税の代替財源は、所得税・個人住民税や固定資産税などに求めざるを得なくなる。法人減税の恩恵は、労働者や株主といった企業のステークホルダーに及ぶから、そうした立場にある国民はよい。しかし、持ち家の年金生活者は、代替財源として固定資産税を増税されると、法人減税の恩恵は直接及ばないのに増税だけ及ぶとして、これに反対するだろう。

所得税のうち、代替財源となりそうで論理的に一つ可能性があるのは、金融所得(配当・譲渡益)課税の税率引き上げである。法人段階で課税前配当の税負担を下げつつ、個人段階で配当に多く課税する、という形だ。しかし、昨年に税率を10%から20%に引き上げたばかりで、さらなる引き上げが見通せる状況にはまだない。

地方の所得税である個人住民税は、本来、地方自治体の行政サービスの受益者である住民に負担してもらうのにふさわしい税であるが、現に個人住民税を払っているのは約5900万人と、日本の人口の半分未満の人しかいないありさまだ。

ここに着目して、個人住民税を代替財源にすればどうかという考え方もあるが、統一地方選挙を来年に控え、臆病な首長や政治家は個人住民税の負担増を言い出せない。

このように、法人減税の代替財源を大規模に所得税・個人住民税や固定資産税などに求めるのは容易ではない情勢にある(とはいえ、まったくこれらをいじらずに、日本の税制を良くすることはできない)。そうなると、法人税の中で代替財源を出すべく、課税ベースを拡大することを真剣に検討することが必要となってくる。

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