政権にとって基礎的財政収支黒字化が重要な訳 黒字化目標の放棄は政権の弱体化につながる

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このように、基礎的財政収支の黒字化目標は政策的経費にメリハリを付ける後ろ盾となっている。もちろん、基礎的財政収支黒字化目標を使わなくても、直接的に各経費にキャップ(上限)をはめるというメリハリ付けの方法もある。

しかし、小泉内閣期に各経費にキャップをはめたことで、自民党内に政治的な摩擦を生んでしまった。安倍晋三首相も各経費にキャップをはめることには消極的であるとされる。

政府債務残高GDP比は使えるか

さりとて、キャップなしに予算要求の採否に歯止めがなければ、与党内を統率するのは難しい。したがって、基礎的財政収支黒字化という目標は、政権基盤を固める手段として与党が与党であるためにわが国で用いられてきた。それは、民主党政権期でもそうだった。

基礎的財政収支黒字化ではなく、政府債務残高対GDP比を低下させるという目標に取り換えてはどうかという声もある。しかし、これも予算編成時には効果はない。政府債務残高対GDP比は、政府債務残高が増えても、GDPがそれ以上に増えれば低下し、政府はGDPがどれだけ増えるかをコントロールできないからだ。

政府債務残高対GDP比を下げるために、政府債務残高をどれだけにすればよいかを見定めるのは容易ではなく、加えて歳出をどれだけ抑制すればよいかという予算編成の指針につなげることも難しい。政府債務残高対GDP比が下がれば、財政は持続可能になるが、それを目標にしても政権の求心力を高める手段に使えない。

歴代政権が基礎的財政収支黒字化を放棄しなかった背景には、こうした政治力学があるといえよう。

政権が基礎的財政収支黒字化という目標を放棄したとき、今の与党に終わりが近づいた証左となるだろう。また、次なる政権も基礎的財政収支黒字化のような目標を掲げられなければ、すぐさま政権は弱体化するに違いない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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