このように、基礎的財政収支の黒字化目標は政策的経費にメリハリを付ける後ろ盾となっている。もちろん、基礎的財政収支黒字化目標を使わなくても、直接的に各経費にキャップ(上限)をはめるというメリハリ付けの方法もある。
しかし、小泉内閣期に各経費にキャップをはめたことで、自民党内に政治的な摩擦を生んでしまった。安倍晋三首相も各経費にキャップをはめることには消極的であるとされる。
政府債務残高GDP比は使えるか
さりとて、キャップなしに予算要求の採否に歯止めがなければ、与党内を統率するのは難しい。したがって、基礎的財政収支黒字化という目標は、政権基盤を固める手段として与党が与党であるためにわが国で用いられてきた。それは、民主党政権期でもそうだった。
基礎的財政収支黒字化ではなく、政府債務残高対GDP比を低下させるという目標に取り換えてはどうかという声もある。しかし、これも予算編成時には効果はない。政府債務残高対GDP比は、政府債務残高が増えても、GDPがそれ以上に増えれば低下し、政府はGDPがどれだけ増えるかをコントロールできないからだ。
政府債務残高対GDP比を下げるために、政府債務残高をどれだけにすればよいかを見定めるのは容易ではなく、加えて歳出をどれだけ抑制すればよいかという予算編成の指針につなげることも難しい。政府債務残高対GDP比が下がれば、財政は持続可能になるが、それを目標にしても政権の求心力を高める手段に使えない。
歴代政権が基礎的財政収支黒字化を放棄しなかった背景には、こうした政治力学があるといえよう。
政権が基礎的財政収支黒字化という目標を放棄したとき、今の与党に終わりが近づいた証左となるだろう。また、次なる政権も基礎的財政収支黒字化のような目標を掲げられなければ、すぐさま政権は弱体化するに違いない。
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