名門3ホテルの歴史に学ぶ「危機」の乗り越え方 コロナと同じく震災・終戦の苦労も大きかった

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そうした顧客の評価を以前から熟知しているからこそ、建て替えでもロビーの再現にこだわり、旧本館を耐震補強するとロビーの雰囲気がぶち壊しになってしまうために全面建て替えを決断したというこだわりようが、ファンの心をとらえる。

固定客の確保のため、開業から数日後には、日本のホテル業界で初めて常連客のクラブを組織した。国内客が「オークラクラブ」で、1971年には外国人客がメンバーの「インターナショナルクラブ」(オークラクラブ・インターナショナル)も発足した。アメリカ大使館が隣接していることもあり、歴代のアメリカ大統領も加入し、初期のマーケティング手法の柱になった。

ニューオータニ:五輪不況で生まれた「お正月プラン」

オークラ開業から2年後、1964年にホテルニューオータニ(東京・紀尾井町のホテルニューオータニ東京)がオープンした。前回の東京オリンピック(同年10月)に向けて増加する外国人観光客を見越して建設され、五輪直前の1964年9月、通常の半分の工期(17カ月)で完成した。

開業当時のブルースカイラウンジ(写真:ホテルニューオータニ)

突貫工事を成功させるため、水回りの難所だったトイレと風呂場を一体化したユニットをあらかじめ工場で製作してしまい、工事現場では部屋にはめ込むだけという「ユニットバス」を世界で初めて実用化した。

「日本初の超高層建築」「東洋一の展望レストラン」など、先行2ホテルを超える「日本一」「最大」にこだわり、開業当初からトップレベルの設備とサービスを追求してきた。ニューオータニの初代会長である大谷米太郎は、ホテル事業参入を前に、旧知だった喜七郎を訪ねてアドバイスを仰ぎ、オークラから人員・ノウハウ面で多大な支援を受けている。

最上階の回転展望レストラン(現在は回転は終了)は大谷の鶴の一声で導入。モータリゼーションを見越して建物を入り口からできるだけ奥に配置して車寄せスペースを確保したのも大谷の意向だ。

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外国人客の利用も多いのだが、国内客に目を向けたのはニューオータニが先駆けである。五輪直後のインバウンド減少で客室に閑古鳥が鳴いたことを奇貨として、「お正月プラン」「受験生プラン」など閑散期にも客を呼び込める企画を矢継ぎ早に打ち出した。

現在でも、ほとんど毎日のように新企画をリリースするのがニューオータニの特徴で、近年は屋外プール「ガーデンプール」をゴールデンウィークと夏場に昼夜開放し、インスタ映えを狙う若者客の人気を集めている(今年は完全予約制)。

ホテル業界も外資系ラグジュアリーブランドの多くが大手ホテルチェーンの傘下に入り、国内勢が数で対抗するのは難しくなっている。が、御三家の国際的な評価は決して低くない。新型コロナウイルス感染症が収束すれば、国内外の旅行客も戻ってくる。日本流のおもてなしを世界にアピールするためにも、御三家をはじめとした国内資本のホテルブランドが輝きを続けられるかどうか。成功のカギはやはり各社の不断の創意工夫に尽きるだろう。

(文中、敬称略)

山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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