コロナ移住、結局「首都圏近郊」が人気なワケ 現実的に考えると地方移住のハードルは高い

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現在はフルリモートだが、それが今後も続くとは思っていない。今後転職の可能性もあり、毎日出勤することもあるかもしれない。それを考えて始発がある逗子を選んだ。引っ越しはこれからである。 

S氏以外にもこの間に購入を決めた何人かに事情を聞いたが、コロナ禍下で一から物件探しを始めて購入まで至った例はまだ少なく、以前から気になっていた物件があったなどのケースが大半。ファミリーで購入となると単身、カップルで賃貸というケースよりも決断までに時間がかかるためだろう。

地方に向かうかどうかは流動的

ここまでの3例はともに首都圏近郊だが、当該エリアの不動産会社への問い合わせは確実に増えている。S氏が購入した湘南エリアも含め、神奈川県内を中心に広く分譲を手掛けるリストインターナショナルリアルティでは、緊急事態宣言明けから都心駅近マンションから郊外戸建への住み替えの相談が増えており、とくに湘南エリアでは問い合わせ件数がコロナ前の約2.5倍にも及ぶほど。S氏も含め、契約に至る例も出始めている。

埼玉から首都圏にかけて分譲・注文住宅を年間3000棟以上販売するポラスでホームページ、不動産ポータルなどでの閲覧数、反響数が大幅に伸びたのは練馬区光が丘の「東京5LDK」と名付けられた全23戸の一戸建て分譲地だ。

光が丘駅から徒歩26分と通勤利便性には欠けるものの、リビングに可変的なテレワークスペースがあり、夫婦それぞれに使える空間の提案があるなどが受け、広域から見学者を集めた。同社はこうした広さ、環境重視の郊外ニーズに応え、農園利用権付きの一戸建て分譲など新たな手を繰り出してもいる。   

では、それ以遠、地方への流れはどうか。すでに引っ越した例も聞かないではないが、詳細を聞くと実家近くなど地縁があっての引っ越しが多く、首都圏近郊同様、一から知らない土地への住み替えはまだまだ。実際問題として会社がフルリモートを決断、あるいは自ら起業するなどして通勤を気にしなくて済むようにならなければ、しばらく働き方は流動的という例も多いはず。現地を見に行くのも難しい状況下では決断には時間がかかるだろう。

それに利便性を外して考えると、首都圏近郊でも葛本氏、小田氏のように安価に広く、自然に恵まれた住まいを探せる場所は意外にある。逆に地方には空き家はあるが、貸家はないという状況などを考えると、一気に地方に人が流れる可能性は低い。しばらくは首都圏内での移動が続くと見るのが妥当だろう。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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