「ホームレスを殺す若者」を25年追う女性の真意 実の父を追いつめた彼女が歩んできた道

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北村さんは、事件の加害者、通称「ゼロ」に大阪拘置所で面会を繰り返し、彼が持病のために長くいじめられ、就労差別を受けていた背景を知る。ところが、同じホームレス支援に関わる人々から心ない言葉が浴びせられることもあった。

「加害者の肩を持っている」

「殺した側の味方だ!」

北村さんが重い口を開いた。

「これはつらかったです。“加害者をかばうようなやつの話など聞きたくない”と講演中に席を立たれ、物が飛んでくることもありました。陰で泣いていました。でも襲撃問題を解決するには、加害者の心理を理解しないといけないという確信がありました」

支援者たちからの理解を得るには、説明が必要だった。

28歳のとき、取材で足を踏み入れた日本最大の日雇い労働者の町、釜ヶ崎で半年間を過ごした北村さん。警察の暴言に抗議ビラを撒き、それをきっかけに機動隊が出動する騒ぎに発展したことも(写真:週刊女性PRIME)

「加害者の背景をいくら説明しても、亡くなった被害者の命はかえらないんだと、責められたこともあります。その後も襲撃の加害少年たちに手紙を書いたり働きかけてきました。でも結局、加害者に寄り添っていたら、被害者側から信用されなくなる。そういう意味で私は支援者としてのタブーを犯してきたので、本当にしんどかったです」

それでも被害者、加害者のそれぞれに寄り添いながら、各地の襲撃現場を訪ね歩いた。批判されながらも続けてきたのはやはり、幼少期の原体験に背中を押されたからだと、北村さんは述懐する。

「私が父親を追い詰めたんだ、殺したんだ、どうしてもっとやさしく接することができなかったのか、という悔恨の念にかられていました。私自身も間違えた罪人だっていう気持ちがあったので、石を投げる子どもたちを責められなかったんです」

人は誰しも間違える──。

その人生哲学に裏打ちされた活動に賛同してくれた有志が集まり、2008年にHCネットが立ち上がる。全国の小中高、大学などこれまでに約500校を行脚した。

「授業終了後、8割方は意識の変容が起こります。前はホームレスを差別していたけれど、今は理解や共感に変わったと。偏見を持つ子どもたちの大半は、怠け者、怖い、危険だから見ちゃだめ、と親から教えられている。周りの大人からある意味で差別教育を受けてきているんです」

無関心な中学生を変えた映像

大阪市西成区のシャッター街。寒い冬の夜、連れだって歩く子どもたちが、目の前に並ぶ段ボールハウスに向かって声をかける。その手にはおにぎりとポット、そして薬箱。

「こんばんは! 子ども夜回りです」

段ボールからむくむくと起き上がるホームレスたちとの会話が始まる。

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