サンマーク「全員ヒット編集者」の絶妙な仕掛け 植木社長「社員に借りがあり、報いるのが会社」
現代経営学の祖と言われるピーター・ドラッカーは、個人が長所を発揮して成果を上げることができ、個人の短所は全体でカバーできるのがいい組織だと指摘していますが、僕はそれが正しい組織のあり方だと思っています。編集者というのは、もともと、人に指示されるのが嫌いな人種なんです。
自由度が高いほうがゼロベースでモノを考えられますから、自由度も高くしています。行きすぎた点数主義とか成果主義はあまりなく、怠けようと思えばいくらでも怠けられる緩やかな組織です。
もちろん、最終的には数字は大切です。経営には絶対必要ですから。けれど、なるべく短期ではなく、例えば5年とか、社員の成果はそういう長いスパンで見ることにしています。ですから、自由にやりながら、結果にはプロとして責任を負うというスピリットを持ってほしいと思っています。
ボーナスと編集者特権
――成果を上げるためのインセンティブは設定されていますか。
弊社には「企画賞」というインセンティブがあります。実売3万部以上で企画者に定価の1%、つまり印税1%のボーナスを支給する制度です。編集者に限らず、企画者に送られます。前社長の枻川惠一さんの時代からの制度で、僕もずいぶん恩恵にあずかりました。弊社には社員に報いるという伝統があるのです。
もう1つは「編集者特権」という制度で、編集会議や編集長の決裁がなくても、年に1冊、自分で好きな本を出版できるという制度です。85万部の大ヒットとなり映画化もされた『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和 著)は、編集者特権で生まれたヒット作です。
『コーヒーが……』の原作は川口さんのお芝居の台本です。企画した編集者の池田るり子は小学校3年生から6年間、毎年300冊の小説を読んでいたという小説好きで、川口さんの舞台を観て感動し、ぜひノベライズして出版したいと思ったのです。ですが、弊社は文藝に強い会社ではありませんから、編集会議にかけても企画は通らない。そこで、編集者特権で作ってしまったのがこの本だったのです。