「米中対立の深刻化リスク」を軽視していいのか 再選に向けトランプ大統領は追い込まれた?

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また、ミネソタ州のミネアポリスで起きた白人警官による黒人男性への暴行、致死事件をきっかけに広がった抗議行動、”Black Lives matter”に関しても対応を誤った。トランプ大統領は、人種間の分断を煽るような発言を繰り返したことにより、それまでややリベラル寄りながらも株価の上昇や経済の好調さを理由に支持をしていた層が、不支持に回ったことも、痛手となっているのではないか。

大統領はここへきてマスク着用を支持するようになり、最後の最後まで開催を強く主張していたフロリダ州での共和党大会の中止も、ついに決定した。民主党の大統領候補が確実視されるジョー・バイデン元副大統領に水をあけられ、再選に赤信号が灯りはじめた矢先のこうした態度の急変は、それだけ大統領に危機感が高まっているということだ。

中国には「強硬な態度」を取り続けるしかなくなる?

今後、再選に向けてトランプ陣営が取り得る唯一の戦略は、元々の強力な支持基盤である伯治人保守層の支持をさらに固め、そこから支持を広げていくことだろう。

そのためにも中国に対する弱腰な態度は、これ以上見せるわけにはいかない。政権内の対中強硬派の意見を積極的に採り入れるようになったのも、ある意味必然の流れだったのかもしれない。

もしそうであれば、この先アメリカは中国に対して、さらに強硬な政策を打ち出すようになるだろう。前述の香港自治法やウイグル人権法案を、ほぼ全会一致という形で上下両院ともに承認した議会は、当初から中国に対しては厳しい姿勢で挑んでいる。

もちろん、先のマスク着用推奨の件も見ても、トランプ大統領は状況に応じてこれまでの方針を180度転換させてしまう柔軟さも持ち合わせており、この先また豹変することも考えられる。だが、株価の維持よりも中国叩きの方が自らの再選に有利だとの判断に変わりがなければ、強硬な政策をさらに推し進めることになると思われる。

総領事館閉鎖の理由となったとされている、スパイ活動などに関する中国側のさまざまな行為は、これまで両国の友好的な関係を維持するために「黙認」していたとも言われる。だが、その気になれば、さらなる制裁に踏み切る理由などは、いくらでも作り出すことができるだろう。

もちろん、一方で中国側も、ウイグルや香港問題などは、国内政治を引き締めるためにも一切譲歩しない可能性が高い。新たな総領事館の閉鎖など、このまま双方の制裁措置の応酬に発展するなら、国交断絶とまではいかないまでも、緊張はもう一段高まる可能性がある。やはり、米中貿易交渉の第1弾が破棄され、アメリカが中国製品に対する新たな関税の賦課や、税率の引き上げに踏み切ることも、十分にあり得ると見たほうがよいのではないか。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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