コロナ禍で露呈した「日本の司法」の致命的欠陥 裁判所はIT化でスピードアップを図れるか

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法廷で行われる弁論であれば、お互いに話すことは短く、大体5分あれば終わってしまう。準備室で行われる弁論準備では裁判官と双方代理人との間でもう少し緊密な議論が行われるが、それでも通常は15分程度で終わってしまう。

開催ペースは1カ月に1回が目標だが、実際には裁判所・原告・被告双方の弁護士の日程調整に手間取るため、大体1.5カ月に1回というのが相場だ。この日程調整は、スケジュール管理ソフトがあるわけではなく、裁判期日に口頭で行われる。

判決が出る前に裁判期日が5~6回開かれるのが相場であり、間に裁判所の夏季休廷期間(2週間程度)が入ったり、年末年始の休みにかかる場合もあるので、大体1年かかる。裁判の迅速化はずいぶんと前から言われているが、これが現実であり、国民の権利の実現には一審だけでも1年かかる。

最近は民事裁判手続きのIT化が議論されているが、裁判所の現状はIT化からはほど遠い。筆者は外資系コンサルティング会社などに勤務後、10年ほど前にこの世界に身を転じたが、最初にビックリしたのは裁判所とのコミュニケーション手段が紙とFAXであるということだった。

裁判所の裁判期日に提出する準備書面は、紙で出さなければならない。それに添付する証拠書類も当然、紙である。

事件にもよるが、平均的な準備書面と証拠の合計枚数は1回当たり10~20枚程度。しかも、それを裁判所用・相手方用・自分用と3セット用意する。時には証拠書面だけで100ページを超えるような場合もあるので、膨大な枚数の紙を使用する。

こう説明すると、読者の方も地下鉄の中で見かける弁護士らしい人が大きなキャリーバッグを持ち歩いている理由がわかるだろう。

当然、裁判期日はリアルで審理するのが原則。遠隔地の場合には電話会議も行われているが、それも原告か被告の一方の代理人が裁判所に出頭している場合に限られる。双方とも電話会議というわけにはいかない。

裁判所はコロナ禍にどう対応した?

政府から緊急事態宣言が発令されたのが4月7日。それから東京地裁で緊急事態宣言への対応の通知がホームページに載ったのが4月14日。「民事事件及び行政事件については、次の事件を除いて期日指定が取り消されます。」というお知らせである。

その後、各弁護士事務所には、事件ごとに各担当部(東京地裁には民事だけで50部ある)の書記官から、期日の取消が電話で通知された。ホームページで「緊急事態宣言終了の5月6日までの期日は取り消します」と告知すれば1回で済んだものが、個別に電話で通知されたのである。

そのうえ、次回の期日を決めたわけではない。ただ取り消しただけだった。

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