コロナ禍で露呈した「日本の司法」の致命的欠陥 裁判所はIT化でスピードアップを図れるか

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5月25日に東京の緊急事態宣言は解除されたが、それを受けて6月1日以降に期日を再開するというお知らせがホームページに掲載されたのは5月29日。その後、各事件ごとに各担当部の書記官から、原告・被告代理人双方に対して、FAXで候補期日・時間帯を記載した書面が送られた。

各代理人が都合のつくところに○✕をつけてFAXで送り返すという原始的な作業が行われ、ようやく7月になって大方の事件で次回の裁判期日が決まったという状況である。

民事裁判でのWeb会議システムの利用が始まったのが2月。このシステムを導入済みの裁判所は、まだ全国で14カ所にとどまる。

4~5月の期間に167件の裁判が行われたという。司法統計で5月の民事・行政の未済事件数を見ると、全国で約47万件、地裁だけでも約33万件だから、4~5月は日本の裁判所がほぼ休業していたことになる。

裁判所のIT化はどこまで進むか

筆者も先日初めてWeb会議で裁判をやった。今は口頭弁論も弁論準備もこの方法で行うことはできないので、民事訴訟法上の書面による準備手続という位置づけで行われた。

裁判所も弁護士も不慣れなため、まずつなぐのに5分ほどの時間を要した。相手方弁護士事務所の様子を見ていると、弁護士がシステムに不慣れなせいか、事務員が接続作業を行っていた。

裁判官がマスクをしたまま話すので聞き取りにくいところもあったものの、その後の会議はスムーズに進んだ。ただし、この期日準備のために提出した準備書面と証拠は、すべて紙を郵送かFAXで事前に提出していた。

裁判所の計画によれば、今年度中に全国の地裁本庁50カ所にWeb会議システムを拡大する。政府計画では、2023年度にWeb会議による口頭弁論・弁論準備を可能とし、2025年度に訴状のオンライン提出の実現を目指しているという。

すでにシステムがあり、それを利用すればよいだけだから、Web会議による口頭弁論も訴状のオンライン提出も、システム的には明日にでもできることである。にもかかわらずIT化が進まないのは、双方の代理人が不出頭でWeb会議で口頭弁論・弁論準備を行うための法律改正に時間を要するためである。

先月、最高裁判所が規則を定め、訴状以外の準備書面や証拠のオンライン提出が可能となるようなシステムを2021年度中に整備するというニュースが流れた。Web会議の全国展開と合わせて、一日も早いIT化が望まれる。また、IT化ばかりでなく、裁判の迅速化に向けて、裁判所・裁判官のスピード感覚をアップさせてほしいところである。

植田 統 国際経営コンサルタント、弁護士、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授

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うえだ おさむ / Osamu Ueda

1957年東京都生まれ。東京大学法学部を卒後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。ダートマス大学エイモスタックスクールにてMBA取得。その後、外資系コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)を経て、外資系データベース会社レクシスネクシス・ジャパン代表取締役社長。そのかたわら大学ロースクール夜間コースに通い司法試験合格。外資系企業再生コンサルティング会社アリックスパートナーズでJAL、ライブドアの再生に携わる。2010年弁護士開業。14年に独立し、青山東京法律事務所を開設。 近著は『2040年 「仕事とキャリア」年表』(三笠書房)。

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