日本の社会保障に根本的な改革が求められる訳 世耕弘成「制度や財源に議論が集中しすぎだ」

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山本:クリアかつぜひ実現したい風景だと思います。テクノロジーを使った健康管理や健康増進をしていくビジネスが今後、発展していくためには何が必要ですか。

世耕:予算をしっかり獲得して始めることがいちばんのポイントです。社会保障分野は予算がかなり固定化されていて、新たなパイをなかなか作りにくいのですが、加藤大臣と私がタッグを組んで、一定の政治的なパワーを持って取り組んでいこうと考えています。

山本:今年1月23日に開かれた明るい社会保障改革議連の会合で、「大規模実証事業」の素案が議題になりました。予防や健康づくりを推進する重要な事業ですが、その場で世耕さんは「予算を細かく示すことよりも、事業の成果目標や手段を明確にする案を持ってくるべきだ」と話されていましたよね。官僚からの案をそのまま飲む政治家も少なくないですが、「政治主導とはこういうことか!」と感銘を受けました。

世耕:日本の行政は、社会保障の分野だけでなく、「大規模実証事業」は過去にたくさんやってきています。しかし、その結果をほとんど聞いたことがない。「この実証でこういうデータが出たので、こういうことを全国展開することにしました」ということがほとんどない。打ち上げ花火でもない、もう線香花火で終わっています。

予算を取って、実証事業を実施したことで満足して終わってしまうというケースが多いのです。今後、日本の行政はエビデンス(科学的根拠や証拠、裏付けなど)に基づいて政策を立案していくことがとても重要です。実証事業というからには、事業の効果をきちんと測定し、その後の事業展開に生かしていくという姿勢が必要になるのです。

また、社会保障全体から見たら小さいですが、健康保険組合など健康保険事業の運営主体である保険者に対して、健保の加入者や事業者の取り組みに応じて付与するインセンティブ(報奨金)の予算を確保しました。健康保険料率にもかかわってきますので、保険者を中心としながら人々の行動変容を促し、医療費が減ってくるようなことになれば、そこをさらなる財源として新たに明るい社会保障へと投資していくという好循環を生み出せます。

保険者のあり方やお金の使い方を変える

山本:社会保障に流れるお金の出元である健康保険組合(保険者)は、加入者の健康管理・増進を目的にしていながら、今は単にお金を徴収して医療機関に払っているだけの組織になってしまっています。この保険者のあり方、お金の使い方を変えるためにも、インセンティブの予算を取ったということですね。

世耕:しっかり取り組むことでメリットにつながる仕組みを作ったことが、非常に大きいですね。健康保険組合はその会社や業界で退職した人がそのまま名誉職のようになってしまう人事も含めて、惰性で運営されてきています。保険者としての経営をしっかりやってもらう必要があります。

あとは企業のトップの意識。経営者が社員の健康管理や健康増進は経営においてプライオリティ(優先順位)が高いと気づけば、企業の健保組合の人事をしっかり行って有能な人材を投入して出世コースにするなどの戦略も生まれ、それに伴って保険者も活性化してくるでしょう。

次ページ保険者が企業にとっての戦略装置になる
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