「強い香りに敏感な人」が持つ意外な病気の正体 化学物質に反応、仕事続けられなくなる場合も
コロナ禍の今、目に見えないウイルスのために、外出を控えている人も少なくないだろう。同じように空気中を漂う「香り」という見えない存在によって健康を害し、外に出られずにいる人もいる。
東京都在住の橋本裕子さん(仮名、40代)もその1人。柔軟剤(柔軟仕上げ剤)や合成洗剤に含まれるにおいの成分を吸い込むと、目がチカチカする、頭が締め付けられるように痛む、呼吸が苦しくなるといった症状に襲われる。
ある日突然、体が香りに反応して──
においによる体調不良が最初に表れたのは、今から3年ほど前のことだった。
「突然でしたね。ご近所の知り合いとすれ違ったときに、『あれ、何これ?』って。そう思ったとたん、猛烈な不快感と症状に襲われたのです」
知り合いとは日ごろからよく顔を合わせており、少し強めの香りがする柔軟剤を使っていることは以前から知っていた。ただ、それまでは近くにいてもその香りで症状が出ることはなかった。
だが、これを機ににおいによる体調不調はどんどんひどくなっていった。
隣人のベランダから漂ってくる洗濯物のにおい、外出時にすれ違う人の衣類のにおい、通勤電車の車内に立ちこめる何種類もの柔軟剤や合成洗剤のにおい……。すべてに体が反応するようになっていった。マスクを何重にも重ねてつけたり、活性炭シートを入れてみたりと対策をとってはみたが、改善しない。結局、人と関わることが困難になり、退職した。
なぜ自分だけがこんなにつらいのか。橋本さんはインターネットで「柔軟剤 つらい」などと検索。そこで知ったのが、香りの害、つまり〝香害〟によって体調不良を起こす人たちの存在だった。
「とくにツイッターではリアルな声が上がっていた。私だけじゃなかった。〝香害〟は化学物質がもたらす〝公害〟です」
と橋本さんは言う。
香害とは、強い香りを放つ製品で生じる健康被害のことを指す造語だ。消臭除菌スプレーや制汗剤、芳香剤など、におい成分が含まれるすべてが対象となるが、そのなかで特に問題となっているのが、「洗濯物の香り」である柔軟剤だ。
柔軟剤は従来、衣類の洗い上がりをふっくらさせたり、静電気を防いだりするために用いられてきたものだ。それが2000年代後半、海外製の柔軟剤が火付け役となって香りにも重きが置かれるようになり、さまざまな香り付き商品が開発され、店頭に並ぶようになった。
それに伴って販売量も増加。日本石鹸洗剤工業会の「洗浄剤等の年間製品販売統計」によると、2019年の1年間に販売された柔軟剤の量は約37万5000トン。2000年(21万7000トン)の1.7倍にものぼる。売り上げを見ると約2倍になっている。
その一方で、いきすぎたにおいに対する問題が、徐々に表面化していく。
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