ウスバキトンボの大群が背負う「はかない運命」

冬を越せず全滅するのに海を越え日本に来る

「精霊(しょうりょう)とんぼ」とも呼ばれるウスバキトンボ(写真:rishiya/PIXTA)
生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。
土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、大回遊の末に丼にたどりついたシラスなど生きものたちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま はかない命の物語』から、ウスバキトンボの章を抜粋する。

赤とんぼのようだが赤とんぼではない

それは、帰り道のない旅立ちである。

そのトンボは精霊(しょうりょう)とんぼと呼ばれている。

お盆の頃になると、精霊とんぼは日本各地で群れて飛ぶのが目立つようになる。そのため、祖先の霊を乗せて帰ってくると言われているのである。

精霊トンボの正式名は、ウスバキトンボである。

ウスバキトンボは体が朱色のため、「赤とんぼ」と呼ばれるが、正確には赤とんぼではない。

赤とんぼに分類されるのは、アキアカネやナツアカネなどアカネ属のトンボである。ウスバキトンボはウスバキトンボ属に分類されており、実際には、赤とんぼではないのだ。

代表的な赤とんぼであるアキアカネやナツアカネの体は、夏の間はオレンジ色をしているが、秋になると真っ赤になる。ところが、ウスバキトンボの体は秋になってもオレンジ色のままである。

アキアカネやナツアカネは、幼虫のヤゴの時代を水田で過ごす。田んぼに水が入れられると、卵から孵(かえ)ったヤゴたちは、田んぼの水の中の微生物や小さな虫などをエサにして暮らす。やがて初夏になると、羽化(うか)してトンボになるのだ。

ところが、アキアカネやナツアカネは、夏の暑さが苦手である。そのため、アキアカネは涼しい山の上に、ナツアカネは近くの雑木林の木陰に移動する。そして秋になって涼しくなってくると、田んぼに戻ってきて土の中に卵を産み、翌年の田植えの時期に卵からヤゴが孵るのである。

こうして、赤とんぼたちは田んぼと周辺の山や林を回遊しながら命をつないでいる。

田んぼから高原や山の上へと大移動する、アキアカネの群れは圧巻だ。

ところが、である。最近では、アキアカネやナツアカネは絶滅が危惧されるほどめっきり減ってしまった。その原因の1つは冬の田んぼにある。

アキアカネやナツアカネは、田んぼのトンボである。山や林から戻ってきたトンボたちは、秋の田んぼに卵を産む。ところが、最近の田んぼは排水がよくなるように整備されているので、冬の田んぼはよく乾く。昔だったら、冬の間も湿っていた田んぼの土が、カラカラに乾いてしまうのだ。この乾燥で卵が死んでしまうのである。

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