中国人の英語習得は日本人と一体何が違うのか 小学生が自習する教材は日本の中学卒業レベル

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では、中国ではどのような英語教科書を使っているのか?

中国の教科書制度は、1980年代半ばまでは教育部直轄のもと全国共通の教科書を編集していた。しかし生徒の学力や教員の質が地域ごとに異なる実情を考慮して、1980年代以降はさまざまな機関が編集する複数の教科書を国が検定し、各地域が選択して使用することになった。

現在、教科書はすべての子どもに配布されるが、ウェブサイトでも閲覧・ダウンロードが可能だ。このウェブサイトが創設された理由は、教育熱心な親が自分の子どもの教科書の内容を知りたい、上の学年の教科書を先取りして子どもに学ばせたいというニーズがあるからだという。

また副教材は学校ごとに採用している。筆者は北京の名門小学校で、自習をしていた小5の子どものテキストを見たが、日本の中学校卒業レベルのものだった。

「国の教科書は簡単すぎる」

「国の教科書は簡単すぎるので、こうした副読本を使っています」

教員は筆者が説明した日本の事情に少し驚きながらこう語った。

日本の教育現場の人と話していると、よくこんな疑問をぶつけられる。

「とはいえ中国で英語ができるのは都市部だけで、農村部に行けば英語は通じないじゃないか」

中国は広大な土地に14億人を抱える多民族国家だ。例えば朝鮮民族の居住地域の学校では、標準中国語と朝鮮語の次が英語となる。指摘される英語教育の地域格差は厳然として存在しており、上海の教員も「格差は感じる」と語り、北京の教員も「それは避けられない問題です」という。

では、こうした「教育格差」を中国はそのまま放置しているのだろうか。

実は導入当時、教育部は目標の1つとして「英語カリキュラムと指導方法の科学的研究の強化」をあげていた。各地域に教育研究部門と研究指導員を置いて、英語教員に「学習指導研究」を行わせるというものである。

そして各地域では「モデル学級」「モデル校」「モデル地区」を設置して、さまざまな教育メソッドの実証実験を行い、いい結果が出たものは先進的な事例として国が吸い上げ、ほかの地域に広めることにした。

日本でも「特区」制度があり、埼玉県戸田市など「英語特区」として早くから小学校で英語学習を行っている地域がある。

しかし中国の場合は、全国が教育実験の場であり、好事例は国と地域が共有化する。

地域格差をなくし全国画一化を目指すよりも、各地域が実情に合わせた教育システムをつくるのにリソースを使う。そのほうが合理的であると、中国は判断したのだ。

鈴木 款 教育アナリスト

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すずき まこと / Makoto Suzuki

1985年早稲田大学政治経済学部・2020年同大学院スポーツ科学研究科卒。農林中央金庫で外国為替ディーラー等担当。NY支店に4年半勤務。1992年フジテレビに入社。営業局、「報道2001」ディレクター、NY 支局長、経済部長を経て現在解説委員。著書に『小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉 』『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』『日経電子版の読みかた』、編書「2020教育改革のキモ」。教育問題をライフワークに取材。テレビ・ラジオ出演、講演・大学講義や雑誌・ウエブへの寄稿多数。映倫の年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。趣味はマラソン、トライアスロン。2017年にサハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。

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