多国間で健康情報を共有する方法には、いくつかオプションがある。
1つのオプションは、黄熱病のイエローカードのように、医療機関等がワクチン接種履歴を記録した紙の証明書である。イエローカードはWHO規格に基づく世界共通のフォーマットがあり、入国時にパスポートと一緒に提出する。紙の証明書であれば新興国の入管でも使えるが、仮に実現するとしても、COVID-19に対する有効なワクチンが開発され、世界中の人々に十分に行き渡った後になる。
もう1つのオプションは、渡航者の健康情報について多国間で共有できるデータベースもしくはデータの共通フォーマット開発である。すでに入国管理で活用されている事前旅客情報(API)の活用が近道であろう。APIはテロリストの不法入国や密輸を防止するシステムとして、北米、日本、中国、インドなど世界各国の空港で導入されている。国連専門機関のICAO(国際民間航空機関)も各国への普及を支援している。アメリカが主導し、国際機関も巻き込みながら、政府・航空会社で連携して運用してきた国際ルールのひとつである。
人の移動のルール掲載に国際協調は必須
国境開放の考え方については、出入国管理が経済や安全保障に直結してきた欧州を中心に標準化の動きが進みつつある。島国の日本では、中東と事実上地続きの欧州、中南米と陸続きのアメリカに比べれば、出入国管理の政策的な優先順位は低かった。
しかし、日本は世界第3位の経済大国として海外出張も多く、欧米に比べればCOVID-19による人口比死亡率も低く抑えられてきており、ウィズコロナ時代の国際的な人の往来再開においてルール・シェイパーとしての役割を果たせるはずである。
インド太平洋地域でCPTPPに加盟する6カ国(ベトナム、ニュージーランド、オーストラリア、ブルネイ、マレーシア、シンガポール)および台湾は、日本以上に感染封じ込めに成果を上げてきている。日本は価値を共有するこうした国・地域と手を携えながら、人の移動の分野で本来、主導的な役割を果たしてきたアメリカとも緊密に連携し、国際的な人の往来再開のルール形成に積極的に参画するのが望ましい。
さらに、これら有志国は中国もルール形成に引き込む必要がある。国境を越えることを、ふたたび容易なものにするため、パンデミックとの闘いと同様、人の移動のルール形成においても国際協調は必須である。
(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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