国際的な人の往来再開で先陣を切ったのは中韓であった。5月1日から中韓の両政府はファストトラック制度を実施し、企業関係者は出国前後に検査を受け、陰性が確認されれば14日間の隔離が大幅に短縮される。5月17日、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長は訪中し、翌日、西安の半導体工場を視察した。
この道中、李副会長は韓国からの出国前、中国への入国後、韓国への帰国後と、何度もPCR検査を受け、いまやパスポートよりも重要になった陰性証明とともに、14日間の隔離なしに出張日程をこなした。中韓が感染拡大の第1波を抑え込んでいたため実現した短期出張だったが、背景には、中国との経済活動を再開したい韓国政府の後押しがあったとも言われている。
自国より感染状況が低いか同程度に抑えられている国であれば、国境の開放は比較的容易である。日本は国境開放の第1弾候補として、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を選んだ。いずれも日本より人口比死亡率が低い国々である。
同様に、欧州はバカンス・シーズンを前に、欧州の国家間において原則として入国審査なしで国境を越えられる「シェンゲン協定」域内の渡航を許可し、さらに日本やオーストラリアなど比較的感染が抑えられている国々からの入域制限を緩和した。
自国よりも感染拡大が深刻な国との間はどうする?
難しいのは、自国よりも感染拡大が深刻な国との間での国境開放である。疫学の専門家によって、入国制限を緩和した際のリスク評価が進んでいる。感染が拡大している国々から日本への入国を認めた場合、空港での検疫を強化し入国者全員にPCR検査を実施し、さらにホテル等での2週間の待機を要請したとしても、感染者の入国を完全には防げない。
北海道大学大学院の西浦博教授らのシミュレーションによれば、感染者が海外から1日10人入国するだけで、3カ月後には98.7%の確率で大規模な流行が発生する。精度の高いPCR検査であっても、その感度は約7割であり、感染者のうち約3割を検査陰性(偽陰性)と判定してしまうからである。また待機している間の行動制限が緩ければ、2次感染のリスクもある。
つまり、感染拡大している国々、とくに欧米諸国に対し国境を開放すべきか否かは、国民の命と健康のリスクをどこまで許容できるか、という高度な政治的判断となる。考慮すべきは以下の3つである。
第1に、検疫の検査体制が整備できているか、である。輸入症例を極力、持ち込ませないように、検疫が感染者をできるだけ早く、正確に捕捉することが重要である。PCR検査も完璧ではないが、最低限、水際でのPCR検査が徹底できなければ、輸入症例による国内での感染再拡大の確率は高くなる。
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