愚直に観察して製品開発 名南製作所取締役相談役・長谷川克次氏③

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はせがわ・かつじ 1927年鳥取県米子市生まれ。15歳で就職。名古屋市立工芸学校夜間部で学ぶ。53年に合板機械メーカーの名南製作所を設立。社長、会長を務め、2009年6月から取締役相談役。名南製作所は株式非上場だが50年以上黒字経営。09年3月期は売上高86億円、利益3億円。

木材機械という傍流産業にあって、潰れもせず50年以上も黒字経営を続けてこられたのは、「なぜか?」を徹底して追求してきたからだと思います。売れないのはなぜか? お客さんが本当に欲しがっているものの中身は何か? それを考え、追い込み、あらゆる手段を使ってその課題に集中攻撃し、製品化してきました。

わが社の最初のヒット製品はドラムサンダーという合板の最終仕上げ機械です。住宅用に使われる合板は表面の美しさが求められます。美しさとは何かを突き詰めて考えました。そして合板の表面の美しさは、光にあると気づきました。滑らかで光をきれいに屈折させる表面を人間は美しいと感じる、と。

その光の屈折を実現するにはどうしたらよいか、徹底的に追求しました。市販のベニヤ板100枚近くを買い込み、サンドペーパーでこすって実験。粗さや、こする圧力・回数・方向を変え、ただただまじめに観察しました。人間がこする手の動き、眼球の動き、脳神経の分析まで、たくさんの社員で激論して完成したサンダーは、日本にとどまらず海外でも評判になりました。

先入観にとらわれない見方ができる者は強い

表面を美しくしたいというニーズは木材にとどまりませんでした。金属やプラスチックメーカーからも引き合いがあり、ステンレス流し台や合成皮革などの表面を磨く機械も開発しました。しかし、手を広げすぎて技術が分散してしまい、これは危険だと判断して、木材一本に絞りました。木材だけでも十分な手応えがありましたから。

その後、合板の中身を作るコンポーザーや、木材を削り出すロータリーレースという機械の開発に集中しました。合板の中身がふぞろいであれば合板の厚みが変わり、表面の光の屈折も変化してしまうからです。

いずれの機械も、以前から似たような製品が作られていましたが、品質は十分ではありませんでした。そこでゼロから考え、業界のタブーを破るものを開発しました。たとえば当時の削り出しの機械は、木材のどの部分にも傷が付かないようにしていました。ところが私たちは、最終製品では見えなくなる、ある箇所の傷を覚悟し、動力もそれまでと違った伝達方式にしました。するととても美しい板を削り出せました。

これらも私と多くの社員で発見したものです。常識にとらわれずタブーといわれていることでも試してみたからできたことです。食い込んだ色眼鏡を外し、先入観にとらわれない見方ができる者は強いのです。

週刊東洋経済編集部
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