居心地がよくなるように働こう 名南製作所取締役相談役・長谷川克次氏④

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はせがわ・かつじ 1927年鳥取県米子市生まれ。15歳で就職。名古屋市立工芸学校夜間部で学ぶ。53年に合板機械メーカーの名南製作所を設立。社長、会長を務め、2009年6月から取締役相談役。名南製作所は株式非上場だが50年以上黒字経営。09年3月期は売上高86億円、利益3億円。

色眼鏡を外すことのできた人はいい仕事をします。先入観という色眼鏡を外せれば、常識にとらわれない、画期的な製品を作り出せます。そうして成功した社員と何度となく涙で肩を抱き合ってきました。とはいえ、長い経験で身に着けた色眼鏡は鎧(よろい)のようなもので、なかなか脱ぐことができません。鎧は欲でもあります。それを脱ぐのに何十年もかかるという人もいます。

 どうすれば脱げるのか。どうやら私にも色眼鏡があると気づき、まず私が色眼鏡をとることから始めました。物理の勉強会を始めたのもその頃です。夜間の中学しか出ていない私は、大学出の弟やしっかりした後輩に核心を突かれ、何度も驚きの声を上げました。そしてついに「私は鎧を脱ぎ、ピストルも短刀も持っていない裸だ。だが君はまだ鎧を着けている。いいかげん暑いだろう。そろそろ脱いではどうか」と他人に説教するまでになりました。時間がかかりますね。辛抱が必要です。

どうぞ自分のために働いてください

もう一つ、社員に言っていることは「会社のためにではなく、自分のために働け」ということです。人間には3大本能があります。自分を守る、家族を守る、集団を守る、の三つです。この三つが満たされないと人間は苦しくなります。私たちの場合、集団が名南製作所です。名南を「自分の集団」と感じられるよう、名南での居心地がよくなるよう、どうぞ自分のために働いてくださいと言っているのです。

名南には同僚や後輩に教えようという社員がたくさんいます。自分の居心地をよくしようと、他人に教えているのです。それがいいのです。

矛盾だらけの人生にあって、この3大本能のバランスがとれるよう、名南は模索を続けています。社是としている自然法則F=ma(力=質量×加速度)と同様、逆らうことのできない人間の本能に向き合っているのです。仏教もキリスト教もイスラム教も、結局はこの3大本能のバランスをとれと教えているのではないでしょうか。

今は100年に一度の迷走中です。自由主義経済のハンドリングは難しいですが、過去は結局、イノベーションで立ち直っているようです。経済もしょせん地球上の出来事。自然法則F=maは経済にも通じます。技術革新をするためには“F(=力)”が必要です。質の高い一人ひとりの力を合成させた大きな力のベクトルを与えれば、その加速度によって最良の結果を創造するはずです。名南製作所もこのように着実に変化していければと願っています。

週刊東洋経済編集部
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