会社の社是はF=ma 名南製作所取締役相談役・長谷川克次氏①

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はせがわ・かつじ 1927年鳥取県米子市生まれ。15歳で就職。働きながら名古屋市立工芸学校夜間部で学ぶ。53年に合板機械メーカーの名南製作所を設立。社長、会長を務め、2009年6月から取締役相談役。名南製作所は株式非上場で09年3月期業績は売上高86億円、利益3億円。

りんごの落下で有名なF=ma(ニュートンの第2法則)が会社の社是です。力=質量×加速度ということですが、要は人間では何ともならない自然の法則を理解しようということです。この自然法則に従って、自分の頭で考え、仕事をしようということです。おかげで私の会社は、「利益を上げよ」と一度も言ったことがないのに幸運にも50年以上、黒字経営を続けてきました。

私は18歳のときに敗戦の焼野に立ちました。夜間学校を出て本格的に働き始めた頃です。学校では二宮金次郎みたいに勤勉にやりなさいと教わったのでまじめに働いていました。すると戦争から帰ってきた偉い人たちから「余計なことをするな」と怒られました。そんなバカなことはないと7回ほど転職しましたが、どの会社でも、ことごとく頭をたたかれました。それで自分でやるしかないと、自分で会社を興しました。

直感と共感を巻き込んだ哲学

それが今の会社、合板機械メーカーの名南製作所です。機械はニュートンの法則でしか動きません。重い木材でも力をかければ動くし、加速度に従えばすごい加工ができる。だから「F=maの方程式で新しい機械を作ろう」と社員にあるとき言いました。すると反対されました。「似たような機械がアメリカやドイツにあるじゃないですか」、と。私は、「それではダメだ。まねているうちに偽物づくりになる。自分たちで一から機械を作ろう」と言って、物理の勉強会から始めました。

最初は、「とんでもない」と誰もが逃げました。勉強なんて嫌いだから会社に来た、そんな連中ばかりでしたから。でも、眠っていてもいいから参加しろと言って、月曜日の朝8時から正午まで、受付の女性一人を除いた全社員を食堂に集め、物理の勉強会をしました。名南製作所にとっていちばん大事なことなので、週の初めの4時間に、一生懸命勉強することにしたのです。わかっていたつもりの私がいちばん理解できていなかったことには驚きました。時間と場所は変わりましたが、勉強会は今も続いています。こうしてF=maが社是になっていったのです。

ですからF=maにはさまざまな意味が込められています。自然法則には誰も逆らうことができない。その下では社長も社員も同列。同列だから逃げ場がない。お互いが理解し合おうと努力しなければならない。こうした考えは名南製作所という会社の成り立ちや人材教育に大きくかかわっています。直感と共感を巻き込んだ哲学なのです。このことについては、次回お話ししましょう。

週刊東洋経済編集部
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