ジョブズ、君はどうして夢を形にできたのか 「あの日のジョブズは」自分を持て余し続けた彼

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孫正義と語るビル・ゲイツ、シアトル郊外のレドモンドオフィスにて 1987年7月23日(撮影:小平 尚典)

外側の現実と衝突する前に、自分自身と衝突してしまったと言えるかもしれない。ジョブズの生涯に付きまとう過剰さは、自己との衝突に由来しているようにも見える。いつも自分が自分と衝突し、自分を持て余している。だからもっと深いところ、自己の意識よりもさらに深い自己へ向かおうとする。それがスピリチュアルなものへの強い親和性としてあらわれてくる。

ジョブズが面白いのは、こうしたスピリチュアルな感覚と、ときに楽観的にも見える技術信奉が無理なく結び付いていることである。アメリカ西海岸のシリコン・バレーという環境が育んだものだったのかもしれない。コンピューターという最新の技術によって、解脱や涅槃に至ろうとしたのだろうか。

ジョブズはこの世界を見てどう思うか

きみたちがデザインした世界は、いまやひどいことになっている。この世界を見てどう思うか。たずねたいところだが、きみはもういない。「この世」という場所を立ち去ってしまった。それでも知りたいのだ、きみのなかにあったヴィジョンを、触れると火傷するような情動を、やむにやまれぬ思いを。

きみはヴィジョナリーと言われていた。ぼくたちがほしいのはヴィジョンだ。未来の世界をどう思い描けばいいのか。新しい物語をいかに紡げばいいのか。きみは有能な物語作者でもあった。「シンク・ディファレント」をはじめとして魅力的な物語を数多く生み出した。いまは物語の代わりにデータがある。物語も夢も過去にしかない。ぼくがきみを探しているのも過去への郷愁なのだろうか。

きみはぼくたちの世界にあらわれたメシアなのか。ぼくたちが何かを求めていたのは間違いない。それはIBMにも、ビル・ゲイツのマイクロソフトにも求めえないものだった。きみは「夢」を語った最後の人間かもしれない。しかもその「夢」をかたちにできた。だからきみたちが世に送り出したものは、あれほど熱狂的に迎えられたのだろう。どうしてそんなことが可能だったのか。どんな魔法を使ったのか。それはきみの人格と、どのように結びついていたのだろう?

第3回に続く)

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