3つの実績を挙げた1年目のオバマ外交--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 昨年末、オバマ米大統領は、アフガニスタン駐在米軍の増派という大胆な決定を行った。

この決断に対して左派の評論家は、「朝鮮戦争がトルーマン政権の基盤を損ない、ベトナム戦争がジョンソン政権の政策を制約したように、オバマ政権は戦争によって国内政策の実施が困難に陥った民主党の3人目の大統領になるリスクを冒している」と批判している。

他方、右派の批評家は、「オバマ政権の外交政策は軟弱で、言い訳がましく、過剰にソフトパワーに依存している」と不満を述べている。彼らは、増派後18カ月で撤兵を開始するという大統領の約束を懸念しているのである。

オバマ政権は、世界の経済危機と、イラクとアフガニスタンの二つの戦争、北朝鮮とイランによる核不拡散体制の空洞化、中東和平交渉の後退など、難しい外交課題をブッシュ政権から引き継いだ。オバマ政権のジレンマは、ブッシュ政権の負の遺産を処理する一方で、アメリカの新しい世界戦略のビジョンを作り上げなければならない点にある。

プラハ、カイロ、アクラ、国連での演説を通して、オバマ大統領はアメリカのソフトパワーの回復を試みた。その結果、ピュー・リサーチの世論調査によれば、多くの国でアメリカの意見は、ブッシュ政権誕生前の10年間と同じ程度、好意的に受け止められるようになっている。

問題を取り巻く状況が変化する中で移行期の指導者が果たすことのできる役割がある。パワーの中には、政策実現の努力をするだけでなく、課題を設定し、他国の支持を取り付けることも含まれている。それが、オバマ大統領がハードパワーとソフトパワーを結び付けた“スマートパワー”について語っている理由である。ソフトパワーを行使することで政策の実現を可能にする状況を作り出すことができるのだ。

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