日米韓台を俯瞰して見えた「プロ野球」の窮状 ウィズコロナで迫られる4カ国の大きな決断

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MLBと選手会は、新型コロナ禍が深刻化した5月末以来、開催試合数と年俸削減率について数度にわたって交渉を続けてきた。選手会も試合数の削減に応じて年俸がカットされることは了承していたが、MLB経営者は年俸額に応じたスライド式を提示するなど、さらなる年俸カットを提示。選手会の抵抗にあってきた。

その背景には、現在の労使協定が2021年12月1日で満了するという事情がある。次の労使交渉に向けて、両者は安易に妥協したくないという思惑があった。MLB側は年俸支払額を減らすために試合数を削減したい意向だった。一部の経営者は今シーズンを全休してもいいと考えていたようだ。

結局、7月23日もしくは24日の開幕で、60試合のペナントレースを行うことで妥結した。通常シーズンの162試合に対して4割以下の試合数である。

1990年代にもMLBと選手会はFA権をめぐって激しく対立し、選手会は長期間のストライキを強行した。この際には「百万長者と億万長者の争いだ」という批判が全米で巻き起こり、観客動員が急減した。

MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは新型コロナ禍以前から、160チームあったマイナーリーグを120チームに削減するなど機構のスリム化に着手していた。それに加えてこのほど、今季のマイナーリーグの興行をすべて中止すると発表した。

MLBの決断が意味する危機

これは、1世紀以上にわたってMLBが営々と築いてきたマイナーリーグのシステムを、自ら崩壊に導きかねない重大な決定だ。

ただでさえ北米では、NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)やNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)など、ほかのプロスポーツの人気に押され守勢に回っているMLBである。今回の極端なリストラ政策によって、野球人気がさらに収縮する可能性はあるだろう。

そのうえ、アメリカは感染拡大の真っただ中にある。5月には勢いに少し陰りが見えたが、黒人男性の警察官による虐待死をきっかけに起こった全米での抗議デモに加え、一部の州で経済活動の制限を解除したこともあり、6月以降は再び感染者数が増加に転じている。

MLBは選手・関係者に2日ごとにPCR検査を実施するとしているが、すでに球団関係者など50人以上が感染している。検査をすれば、次々に試合から離脱する選手・関係者が出てくる可能性がある。

すでにアリゾナ・ダイヤモンドバックスのマイク・リークなど、年俸を放棄しても試合出場を辞退する選手も出てきている。MLBは「引くも地獄、進むも地獄」の中で事業再開を目指しているといえる。

今や世界の野球界は、選手だけでなく指導者・トレーナー・野球用具・トレーニング機器・計測機器など、あらゆるレベルで国際連携が進んでいる。野球の“母国”アメリカの頂点に位置するMLBの危機は、NPBなど他国のプロ野球にとっても「対岸の火事」ではない。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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