筆者は高校野球の夏の大会が中止になってから、リモートで何度か高校野球、中学以下の野球指導者に話を聞く機会があった。
中止が決定した直後は「かけてやる言葉がない」「立ち直れるか心配だ」といった類いの言葉が多かったが、最近はトーンが少し変わってきた。
ある中学野球の指導者は、こういった。
「今年、悔しい思いをした高校生の中から、将来、好投手がたくさん出てくるのではないですか?」
今年の大会はほぼ「全休」になっている
今年の高校野球は、沖縄県を除いてほとんどの地区で「公式戦」を1試合も消化していない。対外試合もほとんどなかった。だから、投手はほとんど肩、ひじを使っていないはずだ。
今から1年ほど前、投手の健康問題は大きな話題になっていた。新潟県高野連が「球数制限」の導入を一度は決定したことで、全国の高校球界に波紋が広がり、日本高野連が「投手の障害予防に関する有識者会議」を招集するに至った。2019年4月26日には13人の有識者によって第1回の会合が開かれた。
紆余曲折を経て昨秋11月には「7日間で最大500球」という「球数制限」が導入された。投手の健康面を懸念する指導者からは「実質的な投げ放題じゃないか」という声があったが、一方で「球児が投げたいだけ投げさせるのが高校野球だ、伝統を破壊している」という声もあった。
この球数制限は、今春の甲子園(センバツ)から適用されることになっていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、今年の高校野球は完全に活動休止状態になってしまった。
7日で500球はおろか、こと試合に関して言えばほとんどの地方で、投手は1球も投げていない。練習をすることも難しかったから、多くの高校の投手はほぼ「全休」で夏を迎えている。
「夏の甲子園や地方大会では、毎年限度を超えて投げる投手が出て、その後の野球生活に暗い影を落とす例がありましたが、今年の投手は、ほぼ全員がひじ、肩を温存することになるでしょう。高校野球の代替大会は全国で行われるようですが、指導者もその大会で“投げまくれ”とは言わないでしょうし。この世代の投手は、将来、上のレベルで活躍するのではないでしょうか」
前出の中学野球の指導者は語った。そうなるとすれば、過熱する一方だった高校野球は、新型コロナウイルス禍という未曽有の災難によって、ある種の転機を迎えることになるのかもしれない。
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