ここ数年、各方面から日本の高校野球の指導について懸念の声が上がっていた。
このコラムでも紹介したが(「鈴木大地スポ庁長官が語る『高校野球』の未来」2019年6月29日配信)、スポーツ庁の鈴木大地長官は、昨年、筆者の取材に対し、高校野球の行きすぎた「勝利至上主義」は、スポーツ本来の目的を逸脱していると懸念を表明した。
またユニセフ(国連児童基金)と公益財団法人 日本ユニセフ協会は、2018年11月20日、スポーツと子どもの課題に特化したユニセフとして初めての文書『子どもの権利とスポーツの原則』(Children’s Rights in Sport Principles)を発表した。
遊びやスポーツは、健全な成長に欠かすことができない「子どもの権利」だ。『子どもの権利とスポーツの原則』は、すべての子どもが、安心してスポーツを楽しめるように、スポーツに関わるすべての関係者に向けて、子どもの健全な発達と成長を支えるスポーツ環境の実現を呼びかけた。
この発表会の席上では、サッカー界から長谷部誠、プロ野球から筒香嘉智がビデオメッセージを寄せて、行きすぎた「勝利至上主義」や非科学的な指導に警鐘を鳴らした。スポーツ庁の鈴木大地長官も出席し、日本の青少年スポーツの現状を改革すべきと訴えた。
この日本ユニセフ協会の『子どもの権利とスポーツの原則』の発表が、翌年の日本高野連の「投手の障害予防に関する有識者会議」に影響を与えたのは間違いないだろう。こうした一連の流れもあって、高校野球にも変革の兆しが表れたと考えられる。
日本ユニセフ協会が刊行した書籍とは?
今年6月8日、日本ユニセフ協会は「ユニセフ『子どもの権利とスポーツの原則』実践のヒント」(明石書店)という書籍を刊行した。これは、日本のスポーツ界に「子どもの権利とスポーツの原則」の理解の促進を促すための手引書だ。
I章の「ユニセフ『子どもの権利とスポーツの原則』とは?」では、ユニセフが推進するこの原則が誕生した背景と、概要、その観点から見た日本の部活の問題点について紹介している。
重要なのはⅡ章の「『子どもの権利とスポーツの原則』実践のヒント」だ。バスケットボール、野球、柔道などの指導者が、日本の青少年スポーツの問題点を浮き彫りにし、対応策を紹介している。長時間練習、試合出場できない控え選手、指導者のガバナンスの問題なども、指導者自身によって語られている。当コラムで取り上げた新潟県の野球界の取り組みも紹介されている。
さらに、スポーツを支援するうえで「子どもの権利」を組み込んだアシックスの事例、そして日本とはまったく異なるアプローチで選手の強化を行うノルウェーとニュージーランドのレポートも紹介されている。これらの国では青少年スポーツに関する明確な指針が定められ、子どもの権利を尊重する中で強化が図られている。大人のエゴが先行しがちな日本のスポーツとは大きく異なっている。
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