給与水準低下でこれから「家賃デフレ」が進む 民泊の賃貸転換も圧迫し、資産バブル崩壊も

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新型コロナウイルス禍による経済への影響の特徴は「急激な景気悪化」である。「自粛要請」によって過去の景気後退局面と異なる非連続的な変化が生じた。そのため、家計が転居によって「家賃」のコストを調整する間もなく、資金繰りに窮したケースも少なくないと予想される。

賃貸経営情報誌『オーナーズ・スタイル』が行ったアンケート調査(5月14~24日に実施)によると、賃貸住宅を所有している家主の30.3%が「入居者やテナントから、家賃の滞納や、交渉・相談、退去の通告など」が発生したと回答した。「交渉・相談・通告」などの内訳については、一番多かったのが「家賃の減額」(48.5%)で、6割以上の家主が家賃の減額や支払いの猶予などの要請を受諾したとのことである。

5月の消費者物価指数では、「家賃」の前年同月比はプラス0.1%と、前月の同横ばいから小幅な上昇に転じており、現状では指数に「減額要請」の影響は出ていないとみられる。一時的(時限的)な「減額」の場合、「家賃統計」には反映されない可能性もあるだろう。しかし、景気の持ち直しが弱ければ、なし崩し的に「家賃」が減額されたまま維持されることも想定され、影響が徐々に生じる可能性には留意が必要である。

住宅価格(資産価格)への波及も懸念

今回のコラムでは、「賃金」と「民泊需要」、「家計の資金繰り」の観点から、「家賃」が下落する可能性が高いことを示した。もっとも、金融市場や実体経済に与える影響としては、変動が緩やかな「家賃」の動きそれ自体よりも、「家賃」の下落が住宅価格(資産価格)に与える影響のほうを懸念すべきかもしれない。

住宅ローンを使って住宅を購入する際、ローンの月々の支払額を周辺物件の「家賃」の水準と比較することは、住宅価格の割高割安を考えるうえでの常套手段である。つまり、「家賃」の水準は住宅価格の「ものさし」となっている面がある。「家賃」の下落は首都圏を中心に高値圏にあると言われる住宅価格の割高感を一段と強めることになり、資産バブル崩壊のリスクを高めるだろう。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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