所定内給与の変化が「家賃」に与える影響を調べるため、簡単な重回帰モデルを作成した。具体的には「家賃」を被説明変数とし、所定内給与(3カ月ラグ)と2つのトレンド項を説明変数とした。
トレンド項①(2010年1月以降)を用いた理由は、リーマン・ショック以降は所定内給与の上昇率に対して「家賃」の上昇率がやや低くなっていることを考慮したものである。
これは、第1にリーマンショック前後で貸家の新規供給が半減し、平均築年数が長期化したために市場に供給されている家賃全体が下落したこと(アメリカと異なり、日本では「家賃」の推計において経年劣化〈=築年数〉の影響を考慮していない)、第2にアベノミクス以降の「官製春闘」による所定内給与の増加は持続的ではないと人々が考え、所定内給与に対する「家賃」の比率を抑制したことなどが背景にあると考えられる。
また、人口減少が進む中で「空家問題」も懸念され、人口が増えている首都圏以外では「家賃」に対する価格下落圧力が徐々に強くなっている可能性もあるだろう。いずれにせよ、リーマン・ショック以降は「家賃」に対して何らかの価格下落圧力がかかっていることは事実であり、当レポートではトレンド項①を用いてモデルの改善を図った。
2018年以降は民泊需要が家賃を押し上げたか
さらに、トレンド項②(2018年10月以降)は、この時期からはトレンド項①の考察とは逆に所定内給与の上昇率に対して「家賃」の上昇率がやや高くなっていることから、このギャップを埋めるために用いた。
この時期から「家賃」が持ち上がる理由を特定することは困難だが、筆者は「民泊需要」が背景にあるのではないかとみている。2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、貸家を民泊に転換する動きが増加した。つまり、「民泊」という新しい需要が生じたことによって賃貸市場の需給がタイト化したり、収益性の観点から一般的に投資利回りの高い「民泊」とフェアな水準まで「家賃」が引き上げられたりする例があった可能性がある。
2つのトレンド項の背景にある要因を完全に突き止めることは困難だが、今回作成した「家賃」の変動を「所定内給与」と「2つのトレンド項」を用いて説明するモデルの決定係数は0.79となっている。つまり、これで約8割が説明できる。それぞれの変数の説明力も統計的に非常に良好である。
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