ドル円相場の先行きは円高なのか円安なのか ストックの円買いとフローの円売りの綱引き

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年初のコラム『なぜドル円相場はあまり動かなくなったのか』でも述べたように、近年、「リスクオフの円買い」を衰退させてきた一因としては、日本企業による対外直接投資(≒クロスボーダーM&A)の隆盛が考えられる。日本の有する「世界最大の対外純資産残高」に占める直接投資残高のシェアが拡大したことで「円の売り切り」のウエイトが高まり、「リスクオフの円買い」を抑制したと筆者は推測している。

リスク回避ムードが強まった場合、外国債券を売って円貨に戻す動きは出るが、買収(直接投資)した海外企業を売って円貨に戻すことは想像しにくいからだ。

ここでコロナショックの影響を真摯に考える必要が出てくる。コロナショックは企業部門にとって歴史的な大打撃である。今後、財務基盤建て直しの意味などを込めて過去に進めてきたクロスボーダーM&Aが巻き戻される動きが出てくるかもしれない。実際、そのようなケースは一部で報じられ始めている。

大きく報道される「大企業による大企業への直接投資」に目が向かいがちだが、規模は小さくとも巻き戻しの動きが水面下で進んでいても不思議ではない。これが積み重なれば当然、円買い圧力は増していく。今後、感染第2波の到来と共に資産価格が急落するような局面に直面した場合、過去10年で蓄積してきた対外直接投資がさらに取り崩されるおそれはある。

日本企業の対外直接投資への意欲は縮小する国内市場という構造要因に突き動かされたものであるため、過去10年のトレンドが簡単に潰えるとは筆者は思ってはいないが、一時的な動き(≒円買い)を引き起こす要素として見ておく必要はある。

短期的に円売り、中長期的に円買い

以上を総合すれば、短期的にはフローの面、すなわち貿易赤字を含む国際収支全体の方向感が円売りに傾斜していることから、円安ドル高に振れる時間帯も増えてくるように思える。年初来、リスク回避ムードが高まっても円高が抑制されたのは、対米金利差がそもそも消滅しているという点のほか、需給面では円売り優勢だったという点も効いているだろう。

しかし、中長期的にはストックの面から、そこまで円に弱気にはなれない。日本の対外債権国としての磐石さは健在であり、当面は続くとみられるリスク回避ムードではやはり堅調さを発揮するのではないか。また、過去10年で対外純資産の中に埋め込まれた直接投資がコロナショックを受けてある程度、日本国内に回帰してくる可能性も視野に入る。

当面のイメージは日米金利差が固定される中、株価の急落を断続的に経験しながらドル円相場は対外債権国としての評価を背景に少しずつ円高ドル安に傾いていくというものだ。年内で105円割れを主戦場とする時間帯はまだ十分想定できると考えている。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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