ファミマが1000人超の希望退職者を出した理由 現場ファーストを理解できなければ生存不能

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そして社長就任から半年後、LINEで直接つながるどころではない衝撃が社内に走った。澤田が、すべての加盟店を対象に店舗オペレーションに関するアンケートをとることを決めたのだ。

コンビニは本部と加盟店のタッグによって成り立っている。だが、ここ数年、メディアなどでよく聞こえてくるのが、加盟店側の不満の声だ。発注や商品、店づくりやキャンペーンなどをめぐり、本部に対して物申したい、要望を言いたい加盟店もある。

そうした声を吸収してきたのが、各店舗を担当するスーパーバイザーだった。だが、スーパーバイザーが持ってきた声を、すべて経営に反映させていくのは並大抵のことではない。上司や会社への忖度(そんたく)も起こる。そこで、情報は目詰まりを起こす。とくに、人手不足が深刻化して以来、その傾向は顕著だった。

ところが澤田は、これまで個別に聞いていた加盟店の声を、全店のレベルのアンケートで聞く、と言い出したのである。いったいどれほどの声が集まるのか。まさにパンドラの箱を開けるような作業に懸念の声もあがった。だが、澤田は涼しい顔だった。

このアンケートはいまも年に数回、定期的に行われている。毎回4000〜5000件程度は回答が集まるという。

「大事なことは、信頼関係なんです。もちろん、なかには厳しい声もある。本部に対して不満の声もある。それこそ、いい報告ばかりが上がってくる組織はおかしいんです」

あらゆる業務で徹底してアンケートをとれ、と澤田は言っている。そして、寄せられた回答はすべてオープンにせよ、と。実際、澤田が行う社内向け講演までアンケートを取っている。しかも、社内で共有するときにも一切精査されず、むしろネガティブなフリーコメント、澤田への辛辣な声からあえて順に並べているのだ。

ユニクロでの強烈な原体験

いまなお変革が進むファミリーマート。リーダーたる澤田が強く意識していたことがある。それは、現場第一主義であり、加盟店起点だ。

「加盟店起点は、当たり前のことなんです。1万数千もの店舗が、24時間、365日、100円、200円という売り上げをつくってくださることで、ファミリーマートは成り立っているからです」

ファミリーマートは、本部があるから成り立っているのではない。店舗があるから成り立っているということだ。

「加盟店さんがセンターなんです。心からそう思っている。ファミリーマートでは、どこを起点に発想するか、です。これは間違いなく変わったと思います」

ファミリーマート全体では、年間売上高は3兆円規模になる。仕入れている金額は、実に兆円単位だ。取引先である大手飲料メーカーからは、1社だけで700億円以上になる会社もある。

「本部にいると、ともすれば勘違いしてしまう危険があるんです。自分が大きなビジネスをしているような気分になって、偉そうに振る舞ったりする人間が現れる。小売りには、そういうリスクがあるんです」

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