ファミマが1000人超の希望退職者を出した理由 現場ファーストを理解できなければ生存不能

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商品の品出しや発注はもちろん、清掃も行い。レジにも立った。おむすびや弁当、サンドイッチ、お菓子を売り、看板商品の1つ「ファミチキ」をフライヤーで揚げ、宅配便の荷物を預かり、公共料金の支払いに対応した。

キャッシュレス社会の到来で決算の方法は多様化しており、またポイント連携も複雑になってきている。さらに、支払いのとき、「この商品券を使いたい」といきなり差し出されることもあった。その瞬間瞬間で、パッパッパッと頭を切り換えなくてはいけない。

「レジに立つのは正直、怖かったですよ。研修では、いかに自分が無能か、思い知らされました」

研修を受けて、「本当にこれは必要なのか」「どうしてこんなことをやらなければいけないのか」「本当にこれでいいのか」と悩まされる場面に何度も遭遇したという。

マニュアルは、現場に負荷をかけるだけの項目がたくさん並んでいた。例えば、宅配便のマニュアル。発送、取り置きなど14種類のマニュアルは、全部をプリントアウトしたら、100ページもあった。

澤田は、すぐに宅配便の種類を整理し、新人でも扱い方が一目でわかるように、10枚程度のシートにまとめるように指示を出している。その結果、宅配便の取り扱いに関するクレームの数は減少した。

「細かなルールを足し算して積み上げるだけで、引き算をしなかったんですね。だから、やるべきことが意味もなく増えていった。なぜ、ここまで放置してしまったのか。これでは現場が疲弊するだけです。一度、全部ぶっ壊さないといけない、と感じました」

ファミリーマートは複数の会社が経営統合して成長してきた。だから、マニュアルも足し算を重ねる一方だったのだ。そして澤田は、やみくもに規模を追求するのではなく、逆に店舗数は減らしてもいいから質を高めていこう、と大胆な戦略転換を後に図ることになる。

「いい報告ばかり上がってくる組織はおかしい」

澤田の現場第一主義は、現場で働いただけではない。時間を見つけては、加盟店を訪問している。多い日には1日40店舗近く回ることもある。澤田の訪問を心待ちにしている加盟店も多い。

加盟店との交流は訪問だけにとどまらない。澤田はメッセージをやりとりできる無料通信アプリのLINEで加盟店と直接つながっているのだ。それに対して、店舗を巡回し、運営の指導を担うスーパーバイザーなどから、当初はこんな声が飛んだという。

「それはよくありません。リスクがあります」

本部の経営トップと加盟店のオーナーやスタッフが直接つながってしまうと、意見や要望、クレームがすべて澤田のもとに行ってしまうことを懸念しての発言だったに違いない。しかし、その声を完全に無視して、澤田はどんどんLINEでつながっていった。

「問題があるんだったら、それ解決しようよ、と。それだけの話です。もちろん、すぐにはできないこともある。でも、ちゃんと認識しておくために、みなさんの意見を聞きたいんです」

気づきながらも改善が先送りされているような問題点はある。澤田はそれを放置しないのだ。率先して改善策を講じるために動き、本部や現場の社員も迅速に対応するのである。

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