「第2波必ず来る」医療従事者が恐れる英国の今 段階的にロックダウン解除され始めているが

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今後はアップルとグーグルからの技術(API)を導入する考えだが、本格稼働がいつになるかは見えない状況。イギリス政府、保健省の関係者は「冬に向けてアプリの準備はしているが、今は、これが優先事項ではない」とまで言っている。

最も懸念されるのが人々の「気の緩み」だ。上記の通り、国はソーシャルディスタンスや一度に集まっていい人数などについて具体的な指針を出しているが、完全にこの指針を無視した、ごった返すような人の集まりが各地で指摘されている。

例えば、6月下旬にはロンドンで400人近くが集まってストリートパーティが開かれたほか、イギリス南部の海岸には湘南のビーチ以上に人が殺到している。どちらもほとんどの人がマスクをしていないうえ、ソーシャルディスタンスもまったく無視。

警察が出動して距離を取るように指導しても事態は改善せず、地元当局が「重大事態」を宣言するまでに発展した。今でも1日当たりの新型コロナによる死亡者数が3ケタを超える日が続く中、こうした行動は非常に心配される。

抗体検査を受けた職員の複数が「陽性」

有効なワクチンや治療法が確立されてない中で、経済活動が再開されれば感染者が増えることは避けられない。多くの人がそれでも“普通に“行動すれば、間違いなく第2波はやってくるだろう。イギリスでは6月からNHS職員を対象に抗体検査を行っており、筆者が働く病院でも陽性反応が出ている職員が複数いる。「今思えばあの頭痛が」という程度で多くが無自覚だったが、こうして静かに感染が広がっていくわけである。

WHOのテドロス議長は、今回のパンデミックは保健分野の危機を超えて経済や社会危機と、その影響が長期に渡ることを警告している。こうした中、これからは命か経済、どちらかを優先していくというのは無理がある。

そうであれば、必ずやってくる第2波をあらかじめ想定して予防策を徹底するよりほかはない。病院に関して言えば、再度の患者数増加に伴って病床数を柔軟に増やせるようにするほか、それに必要な人員や個人用防護服、医療機器を準備しておく必要がある。筆者の勤務先では冒頭の通り、すでにスタッフに通達が出ている。

一方、医療従事者以外の人ができることは、当たり前だが密集、密接、密閉の3密を避ける、マスク着用や手洗いを徹底する、といったことだが、危機意識を持ち続けることこそが第2波を避けたり、遅らせたりすることにつながるのではないだろうか。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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