「労災かくし」は重大な犯罪 第3回 事業者は4つの責任を自覚すべき

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労働災害に健康保険を使用するのは違法

前述のとおり、労働災害が発生すると、会社は大きなダメージを受けることになります。こうした事実を知ってか知らずか、「労災かくし」をする会社が後を絶ちません。意外と知られていませんが、「労災かくし」は労働安全衛生法違反になるのです。

 会社(事業者)は、労働災害により従業員が亡くなったり、休業したときには、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなければなりません。労働災害の発生を隠すために、この報告書を故意に提出しないこと、あるいは、虚偽の内容を記載して提出することを「労災かくし」といいます。

 「労働者死傷病報告」は、労働災害の再発防止対策を確立させるために提出が義務づけられています。また、同報告は、労働災害統計の作成にも活用されています。提出された報告をもとに労働災害の発生原因の分析が行われており、労働災害防止対策の推進に役立てられているのです。そのため、国は「労災かくし」に対して、厳正に対処する方針をとっています。

 群馬県内の工場の解体工事現場内で発生した労働災害では、自社の東京都内の倉庫で発生したものとして、虚偽の労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出し、同社代表取締役が書類送検されています。この事件は、新聞でも会社名が公表されました。

 中には、労働災害であるにもかかわらず、健康保険を使用させる会社もあります。労災保険では治療費の自己負担がないなど、健康保険よりも補償内容が手厚くなっています。そもそも、労働災害に健康保険を使用するのは違法です。本来受けられるはずの補償が受けられなくなれば、被災した従業員も黙ってはいません。

 建設会社の代表取締役Aは、建設現場で足を骨折した従業員Bに健康保険を使用させていました。しかし、休業に対する補償がされなかったBは生活に困り、労働基準監督署に相談したことがきっかけで、「労災かくし」が発覚しました。その後、労働安全衛生法違反の容疑で、AとAの会社は書類送検されています。

 こうした偽装行為や隠ぺい行為に対しては、社会的制裁も含め大きなペナルティを受けることになります。何より「労災かくし」は犯罪であることを肝に銘じなければなりません。

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