「イージス・アショア」配備計画撤退の裏事情 陸自の当事者意識欠如と「パンフ購入」の弊害

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――河野防衛相は配備撤回の理由として、迎撃ミサイルを発射させた際、途中で切り離される推進装置、いわゆるブースターの落下による危険性を防げないことを挙げています。発射後に切り離されるブースターが落下して住民に危害を与えないようにするには、基地の敷地内や海上に落とすためのミサイルやソフトウエアの改修が必要だとされ、それには約2000億円の費用と12年の歳月を要する、と説明しています。

イージス・アショア導入については、当初1基約800億円、納入は2023年とされていた。イージス艦1隻の建造費は約1500億円。それが構成品選定により、1基1340億円で2025年納入と、金額が増え期間も延びた。それに加え、ブースターが民家に落ちないための改修にさらに2000憶円と12年かかるとなれば、河野大臣でなくともあきれるだろう。しかも河野氏は元々ビジネスマンであり、行政改革担当相も務めたコストや時間に敏感な大臣だ。ずるずると費用をかけるだけの価値がないと判断されたのではないか。

――どうしてそのような費用と時間がかかるようになったのでしょうか。イージス・アショアについては、すでにポーランドとルーマニアのアメリカ軍基地2カ所に配備されています。

伊藤俊幸(いとう・としゆき)/防衛大学校機械工学科卒。海上自衛隊で潜水艦勤務、在アメリカ日本大使館防衛駐在官、情報本部情報官、統合幕僚学校長、海上自衛隊呉地方総監を歴任。著書に『リーダーシップは誰でも身につけられる』など(記者撮影)

防衛省内局は今回のシステムを「パンフレット」だけで決めたと言ってもよいだろう。「パンフレットで買う」というのは、購入する前に実物はなく、世の中に存在していない防衛装備品を買うという意味だ。

まず、ポーランドとルーマニアに配備済みという実績があるものを、構成品選定に入れなかったことが不思議だ。そして米国ミサイル防衛庁から言われるままに2つの選択肢だけの中から構成品選定をした。1つはレイセオン社の「SPY-6」、もう1つはロッキード・マーチン社の「LMSSR」だ。SPY-6はすでにアメリカ海軍が導入を決め、アメリカ海軍のイージス艦向けに製造されている。ところが防衛省は、いまだ構想段階にすぎず実物が存在していないLMSSRの購入を決定した。

「パンフレット」で購入決定?

防衛省は選定理由について、「基本性能で高い評価を得た。経費についても導入経費や維持・運用などの経費でLMSSRがより安価で高い評価を得た」ことを挙げているが、実物がないものをどこでどう評価したのか不思議だと思わないか。だから「パンフレット」で買ったのかと言わざるをえない。

――LMSSRの導入で当初の費用が上がった、ということでしょうか。

1基800億円という額は、既存のイージス艦のシステム一式の値段で、防衛省がイージス・アショア導入時の参考として使用していた値段だ。ところが、米国ミサイル防衛庁から示された取得経費は、約1340億円であることが2018年7月30日の防衛省の文書に書かれている。おそらく将来、イージスシステムの一角を成すものだから、ということなのだろう。

しかも、住民への説明の過程で、ブースターの落下によるリスクが指摘された。これは通常、BMDシステムを構築するうえで、考慮しないものだ。イージス・アショアは、核ミサイルの核弾頭を破壊するための迎撃ミサイルシステムであり、ブースター落下で生じる被害などは想定していない。核弾頭を撃ち損なえば、数万、数十万人の人命被害をはじめ甚大なる被害が生じてしまう。それを防ぐ目的とブースターによる被害を比較考慮すること自体、アメリカからは不思議な国と思われたのだろう。

次ページアメリカ軍との人脈を活用する海上自衛隊
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事