「イージス・アショア」配備計画撤退の裏事情 陸自の当事者意識欠如と「パンフ購入」の弊害

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――海自はすでにイージスシステムを運用しています。海自の持つ実績や知見は、今回のイージス・アショア導入に反映されなかったのでしょうか。

されなかったようだ。もし海自がイージス・アショアの構成品選定に関与されてもらっていたならば、アメリカでイージス艦の教育課程を卒業した者も大勢いるのだから、彼らを中心にしっかりとした中身の審査をすることができたはずだ。そしてアメリカ海軍がすでに採用し、将来の相互運用性を確保するためにもSPY-6を選択しただろう。

また、構成品選定を示した米国ミサイル防衛庁に対しても、アメリカ海軍軍人が海上自衛官に代わって、根回しなどの交渉や調整をしてくれたと思う。これまでに海自が支払ってきたイージス艦の購入費やBMD対応用への改造費用については開発費などの一切の上積みはなく、アメリカ海軍が国内で購入しているのと同額だ。

こうしたことが可能となったのは、日本の立場を考えてアメリカ海軍省などに伝え、サポートをしてくれる関係者がアメリカ海軍の中にいたからだ。アメリカ企業が少しでも高い金額を日本側に請求しようとしたら、彼らが「おかしいではないか」と間に入ってくれる。今回の選定時には、そんな人脈を活用していなかったのだろう。

それでもイージス・アショアは必要だ

――いったん撤回されましたが、イージス・アショアはそれでも必要ですか。

ときに誤解も拡散されるオンラインニュースの時代。解説部コラムニスト7人がそれぞれの専門性を武器に事実やデータを掘り下げてわかりやすく解説する、東洋経済のブリーフィングサイト。画像をクリックするとサイトにジャンプします

必要だ。一つは物理的な面から導入すべきと言える。海上自衛隊のイージス艦は2021年に8隻態勢になる。横須賀港が母港のアメリカ第7艦隊にも7隻ある。有事の際には、これらで北朝鮮からのミサイル攻撃を防ぐことができるだろう。

しかし平時において、イージス艦を周りに水上目標がいない海域に長期間張り付かせていると、乗員の運用能力と士気は確実に低下する。2017年にアメリカのイージス艦が連続して事故を起こしたが、原因はこういった活動によるものだった。北朝鮮のように日本海側にいつ試験発射するかわからない弾道ミサイルに対し、24時間365日にわたって常時監視し即応するためには、イージス・アショアのような陸上のシステムで、体制を構築する必要がある。

もう1つは、何に対して守るのかという根本的な理由だ。今回の配備は、北朝鮮の弾道ミサイルから日本をよりしっかり守るということが第一目的だ。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は非常に賢く、核ミサイルを発射することをきっかけに自身の国家体制が崩壊に追い込まれるような事態を望んでいない。仮に日本に核ミサイルを撃ち込めば、アメリカの核ミサイルによって確実に反撃される。したがって、平時にいきなり核ミサイルを日本に落とすことはないだろう。

ただ、これからも北朝鮮がミサイルの試験発射を続けることは間違いない。今までにも日本列島を飛び越えて海中に落下したものもあったが、もしかしたら日本列島に落ちていたかもしれなかった。さらに、弾頭部は飛び越えて行ったとしても、分離した一段ロケットが日本列島に落ちたかもしれない。このように非常に危険なのだから、より効果的で重層的なミサイル防衛態勢を持つことは必要で、イージス・アショアはその手段の一つなのだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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