専門メディアが掘り当てた、ネットの"金脈" "孫正義の愛弟子"アイティメディア大槻社長が語る
アイティメディアはソフトバンクグループに属しているが、万が一、われわれが何か不祥事を起こしたとしても、ソフトバンクのブランドは傷つかないだろう。資本関係があってもブランドが異なれば、ユーザーはほとんど気にならないからだ。しかし、仮にソフトバンクの名前を冠したソフトバンクホークスで問題があれば、そうはいかない。このように、攻めの面でも、守りの面においても、ひとつのブランドである必要はない。ブランドやコンテンツ、テイストはそれぞれ別にして自由にやったほうがいい。これが僕の考えだ。
運営に関しては、各編集部を一括してバックアップする仕組みがある。編集部はだいだい5~15人で、複数の媒体を担当する編集部もある。たとえば、ガジェット系のチームは「デジカメプラス」や「PC USER」、「ITmedia Mobile」などの編集を担当している。
編集部を支えるのは、技術開発本部という30人のテクノロジー部隊だ。社長直轄の組織で、コンテンツを配信するための編集プラットフォームと広告プラットフォームなどを提供している。こうした仕組みによって、複数のメディアがあっても一体で運営できている。設立当初は、技術陣も2人しかいなかったが、徐々に採用を増やしてきた。ネットメディアはどこに経営資源を投入するかという判断が重要だ。出版社の中の1セクションでは、こうした組織作りはできなかっただろう。
日本発のメディアを世界に
――将来、どのようなメディアを目指しているのか?
引き続き強化したいのは、これまでのノウハウを生かせるニッチで専門的なメディアだ。たとえば、不動産や鉄鋼、造船、建築など、それぞれの産業の中で極めて重要な専門情報がある。ただ、その情報は専門雑誌が衰退する中で消えていく。最近でもオーディオ系の雑誌がなくなっている。
アイティメディアは、こうした情報をネット上に載せて伝える、専門情報の社会基盤になりたい。一般情報ではないので、1000万人には必要ないかもしれないが、3万人や10万人には必要だ。最近では、エレクトロニクスやFA(工場の自動化 ファクトリーオートメーション)、新エネルギーのサイトを広げてきた。当然、メディアとしては採算性も考えなければならないが。
新しいメディアの実験にもチャレンジしている。ネット上で話題の旬ネタを紹介する「ねとらぼ」もそのひとつ。スマホやタブレットなどのスマートデバイス向けメディアだ。専門メディアではないが、発信した話題がユーザーの役に立ったり、楽しんでもらえればいいと思っている。
アクセスの半数はスマホを経由しており、読者も若い方が中心だ。今は2000万PVだが、1億PV程度に育てたい。また、ねとらぼは東京オリンピックが開催される2020年までに、英語と中国語、スペイン語、日本語の4カ国語での展開を目指している。翻訳ではなく、同じテイストで現地のアメリカ人やスペイン人が制作すれば、日本と違った形でヒットするかもしれない。
今、日本のメディアはグローバル展開で遅れている。テックターゲットは全世界に広げようとしているし、ブルームバーグもロイターもそうだ。世界中の人がソニーのプレーヤーを使うように、トヨタ自動車のクルマに乗るように、日本発のメディアが世界で読まれるようにしたい。新聞社やテレビ局はそんなことを誰も考えていないが、僕らメディア人はそういうことを考えていかなくてはならない。
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