専門メディアが掘り当てた、ネットの"金脈" "孫正義の愛弟子"アイティメディア大槻社長が語る

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――出版事業に戻るという選択肢はなかった?

もちろん、戻りたいという気持ちはあった。しかし、この苦しい時期にネットに集中し、広告モデルに特化することを決めている。出版とネットを両方やると、編集者はコンテンツを有料の出版に集めるようになり、無料のネットには魅力的なコンテンツが供給されなくなるからだ。これではダメだ。すべての情報をネットに無料で掲載し、多くの人たちにアクセスしてもらうことで、ネットの世界でアイティメディアの知名度を上げていこうと考えた。

掲載するコンテンツは、一般的な情報ではなく専門情報に絞った。ネットの普及に伴い、一般情報はさまざまなサイトで得られるようになると考えたからだ。このサイトでしか得られないコンテンツをやっていこうと。ネットに集中して広告モデルを志向し、一般情報でなく専門情報をやってきた。これが当社の特徴だ。今でも、ネットメディアのビジネスだけで成り立っている上場企業はほかにはない。まだまだ規模は小さいが、これは会社としての自負でもある。

見込み顧客へ効率的にアプローチ

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アイティメディアはIT関連を中心に専門的なコンテンツを配信

――収益源として、ネット広告に加えて課金などの選択肢は考えなかったのか?

2000年から06年くらいまでは、ネットというだけで広告収入が伸びた。IBMやマイクロソフトなどのIT企業はマーケティングにおいても先進的だったので、グローバルでネット広告にシフトし、当社はその投資先になることができた。

当時はサーバーやネットワークなどの専門コンテンツさえやっていれば広告を入れてもらえた。新聞や雑誌などの紙メディアでは広告がどれだけ読まれたかわからないが、そうした効果を測定できるだけでも、ネットには優位性があった。

ただ、広告主の要求も年々高まっていく。そんな中で出会ったのが06年に提携した米国・ボストンの「TechTarget(テックターゲット)」だ。IT製品・サービスの購買、導入情報を提供する会員制サイトで、記事を読んだり、資料をダウンロードするには、勤務先や部署名など個人情報の登録と利用についての承認が必要になる。サイトには製品の導入に役立つ専門性の高いコンテンツがあり、ユーザーがどのコンテンツに接触したのか、といったアクセス履歴も分析できる。そこに、詳細な個人情報が加わる。ITベンダーはこうした情報を基に、見込み顧客に対して効率的なアプローチができる。仕組みを聞いて「これはいけるぞ」と思った。

IBMやマイクロソフトなどの広告主が求めているのは、最終的に企業のIT担当者とコンタクトするためのリストだ。IT製品はうまくいけば数十億円の投資案件になるので、ぜひ決裁権を持つ人物にリーチしたい。テックターゲットならIT担当者にリーチする仕組みを365日いつでも提供できると思った。ワクワクして、すぐにボストンに飛んで提携を交渉し、日本版のサービスを開始した。

ここ数年では、見込み顧客のリストを提供するだけでなく、データの分析や活用も大幅に進んできた。たとえば、BYOD(私物端末の業務利用)に興味を持つユーザーがいたとする。そのユーザーの行動履歴を分析すると、モバイルセキュリティの記事を頻繁に見ていた。さらに調べると、同じ会社で違う部署のユーザーも同様にモバイルセキュリティの記事を見ている。つまり、行動履歴のデータから、その会社には共通の課題があり、モバイルセキュリティのソリューションを探していることがわかるわけだ。こうした情報を基に、広告主のコンサルティングをすることもできる。

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