コロナで凍結、マンション価格は下がるのか 企業収益・雇用悪化なら売れ行き鈍化も

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ただし、コロナの収束が長引けば影響は無視できない。日本不動産研究所の吉野薫主任研究員は、「これまで住宅が売れていたのは、雇用環境が改善していたからだ。今後、雇用不安が高まれば、購入意欲の減退や購入予算の引き下げが起こりうる」と指摘する。

中堅マンションデベロッパーの幹部は、客の間で高まる将来不安を懸念する。「本人がマンションを購入しようと思っても、家族に『今は買うべきじゃない』と止められ、なかなか成約に至らない」。

不動産鑑定事務所の三友システムアプレイザルによれば、リーマンショック後、分譲マンションの競売が急増した。今後も、所得が減れば住宅ローンの支払いや、多額のローンを組んでの物件購入が難しくなる。企業収益が悪化し買い控えが起こるかが、コロナ後のマンション市場の命運を握る。

変化迫られる販売手法

人との接触が避けられる中、「新しい生活様式」に適応する動きも出ている。オンライン商談システムを手掛けるベルフェイスには、3月以降1万2000社超から申し込みがあった。中でも、「不動産は最も反響があった業界の一つ。成功事例が増えれば、さらに導入が進むだろう」(同社)。

外出自粛でモデルルームを開けられないため、テレビ会議での商談に乗り出したのだ。ただ、「最終的にはモデルルームや現物を見てからでないと、契約には至らない」(大手デベロッパー)。

三菱地所が販売を開始する「箱の間」。在宅勤務需要を深耕する(写真:三菱地所)

投資用マンションを開発・販売するプロパティエージェントは、商談から契約までウェブ上で完結させた。居住用と異なり、現地に行かず立地や利回りで購入を決める投資家も少なくないことが追い風だ。集客セミナーも対面からウェブへ移行したところ、「4月の参加者数は前年同月比で約3倍になった」(同社)。

分譲マンションにも変化の兆しがある。三菱地所は販売中のマンションに、テレワーク向けの「箱の間」というオプションを用意した。大人1人が仕事のできる大きな箱をリビングなどに置き、リフォームせずに個室を設けられる。今後在宅勤務が一層普及すれば、マンションの立地や間取り、共用施設などへの評価は一変するだろう。

『週刊東洋経済』7月4日号(6月30日発売)の特集は「激震!不動産」です。
東京五輪の選手村として仮使用後、分譲マンションに改装予定の「HARUMI FLAG」(東京・中央区)。五輪延期に伴い引き渡し時期が未定になるなど、翻弄されている(記者撮影)
一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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